カナダ人ピアニスト兼シンガーのダイアナ・クラールは、バークリーへの奨学金と偉大なジャズ・ベーシスト、レイ・ブラウンのサポートによって、古典的なジャズ・ヴォーカル・ソングブックに没頭しその名を知られるようになった。レコード収集家でストライド・ピアノを弾く父親の娘である彼女は、ビング・クロスビーやエラ・フィッツジェラルドを聴きながら育ち、ファッツ・ウォーラーのレコードに合わせて練習していた。19歳の時、ブラウンの勧めで、ピアニストでビリー・ホリデイの伴奏者でもあったジミー・ロウルズに弟子入りした。「古いジャズ・ミュージシャンに師事し、彼らの話に耳を傾けた」と彼女はかつて私に語ったが、ジャズという形式に対する彼女のこだわりが揺らぐことはなかった。
ダイアナがスタンダードを歌い始めたとき、彼女は曲をゆったりをプレイし、新たな意味を見出すために再構成した。「シェイクスピアのソネットのようなもので、永遠に美しい」とも彼女は言った。彼女のオリジナル曲は、彼女自身と夫のエルヴィス・コステロとの共作で、同じようなエレガンスと華やかさを持っている。すでに5度のグラミー賞を受賞しているクラールの膨大な作品群は、オールドスクール・ジャズを受け入れ、賛美し、親密なアコースティックや豪華なオーケストラのストリングスからフォーク、ロック、ポップスなどあらゆるジャンルにまたがり、拡大を続けている。
15枚のスタジオ・アルバムと様々なリリースを経て、クラールは独自の道を歩み続けている。それでも、多くのファンが知っている通り、彼女の心がジャズにあるということは間違いない。
過去20年間の彼女のベスト盤を5枚紹介しよう。
ザ・ルック・オブ・ラヴ (2001)
ナット・キング・コール・トリオのトリビュート・アルバムなどで成功を収め、5枚のアルバムを残したジャズ・ピンナップ・ガールだったクラールが、この洗練された珠玉のソングブック・コレクションで颯爽と90年代を駆け抜けた。フルートとストリングスのオーケストラ・ヴァイヴが表現力豊かなヴォーカルに威厳を与え、「ザ・ナイト・ウィ・コール・イット・ア・デイ」のようなピアノのインタールードは聴き手を釘付けにする。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの大ヒット曲、スペイン語のボレロ「ベサメ・ムーチョ」をクラールが豪華にアレンジした曲は、思わずうっとりしてしまう。。
ライヴ・イン・パリ(2002)
パリ・オリンピアで満員の観客を前にしたこのライヴ・レコーディングでは、ヨーロッパ交響楽団、パリ・ジャズ・ビッグバンド、そしてマイケル・ブレッカー(sax)、クリスチャン・マクブライド(b)といった共演者を従え、スウィングし、催眠術をかけ、自分のものにしている。「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、「アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」、ジョニ・ミッチェルのゴージャスな「ア・ケース・オブ・ユー」など、11曲のスタンダード・ナンバーがライブで演奏される。フランスの聴衆が魔法にかけられたように感じたのも無理はない。
フロム・ディス・モーメント・オン (2006)
クレイトン・ハミルトン・ジャズ・オーケストラと、アンソニー・ウィルソン(g)、ジェフ・ハミルトン(ds)、ジョン・クレイトン(b)を含むトリオのもと、トミー・リピューマと共同プロデュースしたアルバムで、クラールは自身のルーツを再認識した。コール・ポーターのロマンティックな大いなる期待への頌歌(「No more blue songs/Only whoop-de-doo songs」)から拝借したタイトルを持つこのアルバムは、11曲のスタンダード・ナンバーで構成され、アップビートでまとまりのある作品となっている。
ウォールフラワー(2015)
このロックとポップスのカヴァー集は、クラールの70年代の名バラードへの愛を物語っている。イーグルスの「ならず者」やママス&パパスの「夢のカリフォルニア」などを収録。マイケル・ブーブレとはギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」をデュエットしているし、ポール・マッカートニーの書き下ろしである「アイル・テイク・ユー・ホーム・トゥナイト」も注目の1曲。ディランのタイトル曲は圧巻だ。
ディス・ドリーム・オブ・ユー(2020)
クラールの最新作は、亡き友人であり長年のプロデューサーであるリピューマとの最後のレコーディング(2017年の素晴らしいアルバム『ターン・アップ・ザ・クワイエット』の糧ともなったレコーディング)から厳選された楽曲集だ。オープニングを飾る 「バット・ビューティフル」は、2人の最後のコラボレーションであり、「ニューヨークの秋」同様アラン・ブロードベントによる繊細なストリングス・アレンジに包まれている。ボブ・ディランの失恋ソングであるタイトル曲には、ギターのマーク・リーボウをはじめとする注目ミュージシャンが参加している。深夜のクールなサウンドがこれほど上品に聴こえたことがあっただろうか。
ジェーン・コーンウェルはオーストラリア出身でロンドンを拠点に活動するライター。アート、旅行、音楽に関する記事を執筆し、『Songlines』や『Jazzwise』など英国とオーストラリアの出版物やプラットフォームに寄稿している。ロンドン・イブニング・スタンダード紙の元ジャズ評論家。
ヘッダー画像: ダイアナ・クラール。Photo: Mary McCartney / Verve Records.