⬛︎ 僕の今後がこのアルバムの世界観から始まる

「本当にいろんな要素が詰まったアルバムになりました。全8曲ともバリエーションに富んでいますし、僕の今後がこのアルバムの楽曲の世界観から始まっていくと思っています」

ニュー・アルバム『Lifescape』について、ギタリストのTaka Nawashiroはこう語る。名門ニュースクール大学卒業を経てニューヨークを拠点に活動し、日本に帰国してからも石川紅奈や石若駿など多くのプロジェクトに参加。私は数年前に小美濃悠太ラージアンサンブルのライヴで初めてその演奏に触れ、まろやかにして粒立ちの良い音色、管楽器とリズム・セクションの間にそっと橋をかけるようなタッチを心に刻んだ。

『Lifescape』は、Taka Nawashiroがニューヨークと東京という2つの場所で活動してきたことによって生まれたミュージシャンたちとの繋がりを集大成することをコンセプトにレコーディングされた意欲的な一作。ジャケットにも登場する愛器、ソウレッツァ・ギターの響きがこよなく美しい。

「この楽器に出会う以前は17インチのアーチトップ・ギターを弾いていましたが、飛行機で移動する時などにトラブルが起こりがちでした。小さくても温かい音色のするギターはないかと探していた時に、ソウレッツァ・ギターの(マスタールシアーである)フェルナンド・デ・オレザさんと知り合うことができました。

エンドース・アーティストとしてカスタムモデルを作ってもらったところ、楽器自体の音がとてもまとまっていて、自分は自然に弾けばいいだけという感じでしたね。晩年のジョン・アバークロンビーもソウレッツァを演奏していて、そのサウンドやタッチ感も好きでしたから、事前に音色をイメージできたのも良かったと思います。

最近のライヴではソウレッツァと、フェンダーのムスタングを使い分けています。ソウレッツァは自分のコントロール下においてきれいな音を出せる楽器で、ムスタングは“暴れ馬”という意味の通り、自分の思うようにならないところが多い楽器です」

⬛︎ 誰もがそれぞれの人生というストーリーを生きている

タイトルの『Lifescape』には、誰もがそれぞれの人生というストーリーを生きていることを、アルバムを通して感じてほしいという願いがこめられている。楽曲の半数以上をベン・アリソン(b)、E.J.ストリックランド(ds)、ヴィクター・グールド(p)とのカルテットを軸に構成し、ほか、馬場智章(ts)、ジョン・カワード(p)、カノア・メンデンホール(b)、石若駿(ds)の演奏や、松村瑠璃、石川紅奈のヴォーカルも楽しむことができる。

「ベン・アリソンは僕の作曲の先生であり、人生のメンターといえる存在です。“ハードルをずっとあげ続けるのが楽しい”というタイプで、自分に負担をかけてどんどん新しいアルバムを出して、どんどん新しいプロジェクトに取り組んでいく。僕もそういうふうに生きていきたいと思っています。

E.J.ストリックランドからは、“ドラムのランゲージ”を教えてもらいました。彼が言っていたのは、“例えばハーモニーを勉強するときは、ピアニストではなくてもピアノを練習する。それなのに、リズムを勉強するときにはどうしてドラムを使って練習しないんだ?”ということ。リズムについて本当に教えていただきましたね。

ふたりとは前作『What We Do Now』にも参加してもらいましたが、このときは僕の中でまだ“先生と生徒”みたいな感じの気持ちがありました。この2作目では結構自由なアプローチとかもしてくれて、コミュニケーションの取り方がフラットになったように思っています。このふたりとはずっとこれからも一緒に何かしらの形でやっていきたいですね。

ヴィクター・グールドのことはE.J.が紹介してくれましたが、素晴らしいミュージシャンでした。たとえば「Promise of 60」でのコンピング(伴奏)を聴いていても、ついてきてくれるときもあれば、突飛なところからアプローチが飛んできたり。E.J.とベンがタイトにプレイする中で、彼のふわふわ感がいいエッセンスになりました」

(LtoR) Ben Allison, Victor Gould, E.J. Strickland, TakaNawashiro

代表的オリジナル・ナンバーのひとつ「Song For Orange」も今回、ジョン・カワードとのデュオという、ついに思い描いていた形でのレコーディングが実現した。

「もともと2020年にニューヨークでジョン・カワードと一緒にレコーディングしようと決めていた曲です。でも録音の前日に彼がコロナになってしまって…。ずっとジョンの美しいピアノと一緒にこの曲を演奏したくて、今回、リベンジが叶ったという感じです。僕はジョンにも作曲を学んだことがありますが、彼は本当に“音楽が服を着て歩いている人”です。彼が参加しているブライアン・ブレイドのフェロウシップ・バンドが大好きな僕にとって、ジョンと一緒に音楽をつくることは、一つの夢でした」

(LtoR) Jon Cowherd, Taka Nawashiro, Kanoa Mendenhall

どの楽曲にも、どのアレンジにも、どのミュージシャンにも、深い思いがこめられている。そんな印象を私はこの力作から受けた。10月21日には、丸の内・コットンクラブでリリースライヴ「Taka Nawashiro ”Lifescape” Release Live at COTTON CLUB」も開催される。

「『Lifescape』を作ってからも、僕の中では次から次へとどんどん取り組みたいことが出てきている状態です。これからの活動にもご注目いただけたらと思います」