おしとやか。その形容が英国人に適切かはともかく、zoom映像の先にいるリアナ・フローレスはまったく業界の澱がついていない、まっさらと言いたくなる女性だった。受け答えもキャピキャピせず、落ち着いている。やはり、まずはそのことを指摘したくなってしまうではないか。
「こういう取材の場ですから(笑)。私の物腰は、一緒にいる人でも変わりますね。場合によってはもっと外交的になって、ダンスをしたりもしますよ」
そんな彼女はカンタベリー生まれ、2歳から自然豊かなノーフォークで育った。大学はスコットランドのセント・アンドリュース大学に通い、現在はロンドンに住んでいる。大学では動物学を学んだ。
「子供の頃は動物がすごく好きで、動物に関する仕事につきたいと思っていました。ですから、音楽は熱心に聞いていなかった。大学に行く前の1年前ぐらいからフォーク・ミュージックとか、ボサ・ノヴァを聞くようになりました」
音楽に熱中する、特別なきっかけはあったのだろうか。
「1人で旅行する機会があったのですが、そういう時って音楽がいい旅のお供になるじゃないですか。それで、音楽が身近になったと思います。最初はすごい基本中の基本でザ・ビートルズから始まり、60年代のポップスを聞くようになり、そしてニック・ドレイクに行き、そこからフォーク・ミュージックを聞くようになりました。曲も17歳の頃から少し書くようになりましたね。それから、絵を描くのも好きでした」
彼女は、イギリス人とブラジル人のミックス。彼女はブラジル音楽にも親しんできたのだろうか。
「母はそれほどかけていませんでしたね。ポルトガル語は聞けばわかりますが、あまり喋れません。」
人前でパフォーマンスしだしたのは19歳のとき。当時から、ホーム・レコーディングなどもしていた。曲はすぐにできてしまったのですかという問いには、
「イエスであり、ノーです。その日の気分とかにも左右されますが、後でその曲をエディットしていくのに時間がかかることもあります」
とのこと。
そして、在学中に彼女は多重コーラスも魅力的なEPをリリースするようになる。その初作『TheWarter’s Fine!』(2018年)については、
「今となっては恥ずかしい。自信がないです」
と、はにかむ。
そんな彼女にとって、曲を作り、歌うということは、どういう意味を持つのだろう。
「少し考えさせて。……私にとっては、かつての文化と自分を繋げてくれるもの。と、同時に今の人々と自分をつなげてくれるものでもあります。音楽は、そういう存在ですね」
米国ヴァーヴからメジャー・デビューの話が来た際の、彼女の気持ちは以下のとおりだ。
「純粋にありがたいなと思いました。ヴァーヴが抱える歴史も知っていましたし、その重みも分かっていましたから。ブロッサム・ディアリーやアストラッド・ジルベルト、この2人がいたなんてすごいことですよね。さっきも言ったように、私は自分よりも前にいた人たちと繋がりたいという思いがありますので、ヴァーヴとの契約は私にとって大きすぎる話でしたがお受けしました。ただ、大学がまだ残っていたので、先に大学を終わらせてくださいとお願いしました」
ヴァーヴ発の『フラワー・オブ・ザ・ソウル』は、デォヴェンドラ・バンハートやジョアンナ・ニューサムらを手がける米国人のノア・ジョージソンがプロデュースしている。アメリカという枠にとらわれず、ぽっかりともう一つの世界を作り出すという印象が彼のプロダクツにはある。
「それは同感です。私は彼が手がけたナタリア・ラフォルカデ(メキシコ人シンガー・ソングライター)が好きなんです。彼は時空を超えた、どんな時代とも違うような感覚を作出すところが好きです。彼が手がけたアリス・フィービー・ルー(南ア出身でベルリンに住むシンガー・ソングライター)も聞いています」
漂いと誘いを携えた『フラワー・オブ・ザ・ソウル』はLAを中心に、パリでもレコーディングされた。
「録音に参加してくれたミュージシャンはノアが選んでくれました。パリでもレコーディングしたのはノアのスケジュールの関係ですね。実は、LAであれパリであれ、スタジオでは恐怖心の方が勝っていました。ちゃんと私はできているだろうか、間違ってないだろうかということを考えてしまいましたね。それでも、パリでもできたことは素敵でした」
プレッシャーがあったとう話を受け、新作はしっとり透明感のあるものに仕上がっているのでゆったりとレコーディングが進んだのかと想像しましたと伝えたところ、
「そういうふうに聞いてもらえたなら、良かった。そうなってほしかったから」
と彼女は微笑んだ。
アルバムには、ジャキス・モレレンバウム(チェロ)とチン・ベルナルデス(歌とギター)という2人のブラジル人偉才が参加した曲も収められている。
「ジャキス・モレレンバウムの関与は私にとっては本当に夢と言いたくなるもので、彼が美を加えてくれて本当にうれしかった。チン・ベルナルデスにはサウダージな感覚を求め、まさしくそういう曲になりました」
12月初旬には、ブルーノート・プレイスとブルーノート東京でライヴを行う。
「初来日で、待ち遠しいです。日本の音楽や映画も好きなんですよ。いろいろ聞いていますが、たとえば山崎ハコが好き。メランコリーなフォーク・ミュージックですよね。映画だと、ホラーの『HOUSE ハウス』(大林宣彦監督。1977年)が一番好き。ブルーノート・プレイスではギターの弾き語りをし、ブルーノート東京では普段ロンドンでやっている面々と演奏します」
2024年11月某日
インタビュー:佐藤英輔
通訳:丸山京子
【公演情報】
LIANA FLORES “Tour of the soul 2024” preview solo live
2024年12月4日(水)
開場 6:00PM / 開演 7:00PM
会場:BLUE NOTE PLACE(東京都渋谷区恵比寿4丁目20-4)
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LIANA FLORES “Tour of the Soul 2024”
2024年12月5日(木)
1st show – 開場 5:00PM / 開演 6:00PM
2nd show – 開場 7:45PM / 開演 8:30PM
会場:ブルーノート東京 (東京都港区南青山6-3-16)
⇒ 公演情報はこちら
【リリース情報】
リアナ・フローレス「フラワー・オブ・ザ・ソウル」
UCCV-1201 SHM-CD ¥2,860(税込)
2024年6月28日リリース
01. ハロー・アゲイン
02. オレンジ色の日
03. ナイトヴィジョンズ
04. クリスタリン
05. 今も昔も
06. 中途半端な心
07. ホェン・ザ・サン
08. アイ・ウィッシュ・フォア・ザ・レイン
09. カッコウ
10. バタフライズ
11. スローリー
12. バタフライズ(ソロ・ヴァージョン) ※日本盤ボーナス・トラック
〈パーソネル〉
リアナ・フローレス(vo, g, cel, key)、チン・ベルナルデス(vo, g)on ⑩、ゲイブ・ノエル(b)、ドリー・バヴァルスキー(key)、デイヴィッド・レイリック(fl)、ダニー・ベンジ(vin, va, vc)、ジョルディ・ナス・ガレル(vin)、ジャキス・モレレンバウム(vc)、クリス・べアー(ds, per)、アリス・ボイド(Bird Song)