―― 皆さんを結びつけたのは、やはり『BLUE GIANT MOMENTUM』の作中に登場する楽曲「MOMENTUM」(沢辺雪祈・作)だと思います。改めてこの曲に対する印象をうかがえますでしょうか?

ジュリアス・ロドリゲス:ピアノのデモ音源と譜面に接した時、「真っ白なキャンバスのようだ」という印象を持ちました。演奏する自分たちにも、リスナーにとっても、豊かな空間が感じられるような楽曲だと思いましたね。もちろん、ひとりのミュージシャンとして、『BLUE GIANT』で描かれていることに共感できました。誰と組んで演奏するか、ミュージシャンそれぞれのレベルが異なった場合にどうするか、何をプライオリティに持つか、何を目標とするか。それらを全部踏まえた上で、ひとつの何かを作り出してゆく・・・そうした物語のエピソードを知ることによって、楽曲に自分たちなりの生命力を吹き込むことができたと思っています。

石塚真一:今のストーリー(『BLUE GIANT MOMENTUM』)はニューヨークが舞台になっていますし、ジュリアスはニューヨーク出身だし、トップ・アーティストに曲を演奏していただけたことはすごく大きな意味があります。本当に感謝しています。

NUMBER8:しかも何テイクも録っていただいて、どのテイクもとてもかっこよかったです。

石塚:今回が何度目の来日ですか?

ジュリアス:4回目ですが、自分のバンドでは初めてです。

石塚:日本の印象は?

ジュリアス:東京にはニューヨークにちょっと似たエネルギーを感じます。フレッシュだし、食べものもおいしいし、人も優しい。日本のオーディエンスに関しては、どの国よりも熱を感じますね。

石塚:日本のオーディエンスは、静かに聴くという印象がありますが。

ジュリアス:何も聴いていないんじゃないかと思えるほど静かでもなく、うるさすぎることもない。注意深く熱心に聴き入ってくれているのがわかります。

石塚:今はロサンゼルスが拠点ですよね?

ジュリアス:ニューヨークでのペースから少し変えようと思ったんです。僕はワーカホリックなので、どんなものでも自分で手掛けたいと思うし、休む時間も忘れて没頭してしまう。ニューヨークは本当にテンポが速いですし、ロサンゼルスで活動することによって、自分で自分の面倒をよく見られるようになったというか、自分を大事にできるようになった気がします。

石塚:ニューヨークの音楽シーンについてもうかがいたいのですが。

ジュリアス:アメリカはそれぞれの都市に個性があると思いますが、やはりニューヨークが中心のところはあるでしょうね。皆がニューヨークに集まり、腕を磨き、そこで生まれたものがスタンダードになっていく。ニューヨークで通用すれば、どの街でも平気というところはあると感じています。

石塚:昨年、約2か月ニューヨークに滞在して、いろんなジャズ・クラブに足を運びました。チルなもの、スピリチュアルなもの、実験的なものも多くて、ジュリアスが「タイニー・デスク・コンサート」(アメリカの非営利公共ラジオNational Public Radioのデスクで行われるライヴ。YouTubeで配信)でプレイしていたような楽しいものは少なかったというのが個人的な印象です。あの番組でのあなたのパフォーマンスは、僕にとって“ベスト・オブ・タイニー・デスク・コンサート”です。

ジュリアス:ありがとうございます。僕にはジャズを「踊れる音楽」に戻したいという気持ちがあります。かつて、ジャズが踊って楽しめる音楽だった時代がありました。僕はジャズを、ただ歴史を守るためのものではなく、共感できるもの、今の人たちにとって必要なものに応えていくようなものにできたらと考えています。

石塚:「踊れる音楽」、とても興味深い意見です。

photo by : Masanori Doi

―― 人生を変えたジャズ・ミュージシャン、特に大好きなジャズ・ミュージシャンを教えていただけますか? 

ジュリアスチック・コリアですね。2008年に行われたリターン・トゥ・フォーエヴァーのラスト・ショウに接して、「こういうジャズもあるんだ」と、ジャズの見方がそこで大きく変わりました。エレクトリック・ギター、ベース、ドラムス、キーボード&シンセサイザーによるサウンドが衝撃的でした。僕は子供の頃からジャズもロックも好きでしたが、まさかその2つが一緒になるとは考えてもみなかったんです。ジャズが今のものであり続けるためにも、いろんな他の音楽、カルチャー、テクノロジーに対してオープンでありたいというのが僕の意見です。かつてディジー・ガレスピーがキューバ音楽を取り入れていたように。

NUMBER8:僕は上原ひろみさんの演奏にインパクトを受けました。僕が最初に聴いたジャズのライヴは上原さんのステージだったんです。ジャズには「落ち着いた音楽」という先入観があったのですが、「ここまでピアノを弾くんだ、ジャズというものはこんなにすごいんだ」と。圧倒的なパワーに、忘れられない衝撃を受けました。

ジュリアス:アーティストには、音だけではなく、視覚面でもスタイリッシュであることだと思います。ひろみはまさしくそのひとりであり、自分自身の世界を表現していますね。

石塚:ディジーの曲がったトランペットも、モンクのサングラスもスタイリッシュでした。先ほどの質問に関してですが、僕は本当にたくさんのミュージシャンが好きで、とても絞れないんです。ディジーも大好きだし・・・

photo by : Masanori Doi

―― NUMBER8さん、石塚さんにとって、ジュリアスさんの音楽の魅力は何でしょうか?

NUMBER8僕がジュリアスの音楽から受けるのは、「明るくて、とてもポジティヴな感覚」ですね。聴いていて非常に楽しいし、退屈することがない。

石塚:アルバム『エヴァーグリーン』を聴いていても、「ソング」があることがわかるんです。「持って帰れるメロディ」があるというか、歌詞がつけられるぐらいの親しみやすさがジュリアスの音楽にはあります。それに、ノリがいい。

ジュリアス:ポップ・ミュージックの影響は無視できないですね。僕はジャズという自分の好きな音楽を同世代、つまり20代にもっと聴いてもらいたいという気持ちも強くあります。

photo by : Masanori Doi

―― 今度はジュリアスさんにうかがいます。“BLUE GIANT”シリーズの主人公である宮本大からバンドに誘われたらどうしますか? 入るとしたら、どんなバンドになると思いますか?

ジュリアス:もちろん参加します。大は、どんな会場で演奏するかということよりもまず、聴いてくれる人に「俺の音を届けるんだ」ということを一番に考えていますからね。その考えは僕も同じですから、もしバンドに入ったら良いものを作れると思います。ドラマーの玉田(玉田俊二。大の高校の同級生でジャズバンド「JASS(ジャス)」のドラマー)に関しても、最初は実力の差があって、大にとっては決して最高の腕前の持ち主だったわけではないけれど、それでも彼をバンドに入れるという(大の)考え方が好きですね。自分もバンド・メンバーを選ぶときは、ある種の投資をするというか、将来性をみるところがあります。

石塚:大はエモーショナルでしょう。あのやり方は、今となってはちょっとオールドスクール的なのかなとも思ったのですが、ジュリアスさん的には「あり」ですか?

ジュリアス:「あり」です。いちばん大切なのは、スタイルが何であれ、自分の感情でコミュニケートできるかということですから。

石塚:なるほど、嬉しいなあ。

photo by : Masanori Doi

―― 今後、“BLUE GIANT”シリーズとジュリアスさんのコラボレーションがさらに濃密になることを楽しみにしています。

石塚:パンデミックの前に「BLUE GIANT NIGHTS」というイベントをしていたことがあります。

オーディションで選ばれた高校生たちにステージに立ってもらって、ケンドリック・スコットやジェイムズ・フランシーズなどプロ・ミュージシャンとコラボレーションしてもらったり・・・このイベントが再開した時には、ぜひジュリアスさんに参加してもらえたらと思います。

ジュリアス:それはぜひ参加したいですね。僕はハイスクールの頃、「ネクスト・ジェネレーション・ジャズ・オーケストラ」の一員として初来日して、日本の同年代の学生たちと一緒に演奏しました。また日本の学生と交流できる機会を持てたら嬉しいです。」

photo by : Masanori Doi

2024年12月某日
インタビュー:原田和典
通訳:丸山京子
写真: Masanori Doi

ジュリアス・ロドリゲス
AL『エヴァーグリーン』
好評発売中
SHM-CD:UCCV-1202 ¥2,860(tax in)

収録曲目:
1. ミッション・ステイトメント
2. ファンミズ・グルーヴ
3. アラウンド・ザ・ワールド
4. ロード・レイジ
5. メニー・タイムズ
6. ライズ・アンド・シャイン
7. ラン・トゥ・イット
8. 永遠の愛
9. スターズ・トーク
10. チャンピオンズ・コール

〈パーソネル〉
ジュリアス・ロドリゲス(p, syn, og, rhodes, eg, eb, ag, cl, ds, per, ds programming)、キーヨン・ハロルド(tp)、ジョージア・アン・マルドロウ(vo)、ネイト・マーセロー(g, syn, sampler)、フィリップ・ノリス(b, ab, ds)、 ブライアン・リッチバーグ・ジュニア(ds, tmb)、 ティム・アンダーソン(programming, ds programming) 他

ヴァリアス・アーティスト
AL『BLUE GIANT MOMENTUM』
好評発売中
SHM-CD:UCCU-1691 ¥3,300(tax in)

収録曲目:
01. MOMENTUM / ジュリアス・ロドリゲス
02. ストラスブール/サン・ドニ / ロイ・ハーグローヴ
03. セントラル・パーク・ウエスト / ジョエル・ロス
04. 処女航海/エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス / ロバート・グラスパー
05. トゥ・ネヴァー・フォーゲット・ザ・ソース / サンズ・オブ・ケメット
06. アラバマに星落ちて / クリスチャン・マクブライド
07. シンセティックス / カート・ローゼンウィンケル
08. ジョン・ポール・ジョーンズ / ポール・チェンバース
09. パーカーズ・ムード / ザ・ハーグローヴ ・マクブライド・ スコット・トリオ
10. スリー・リトル・ワーズ / ソニー・ロリンズ
11. ブルー・ワールド / ジョン・コルトレーン
12. スリー・トランペッティアーズ / ニコラス・ペイトン
13. アイム・コンフェッシン / サマラ・ジョイ