1964年12月9日に『至上の愛』がレコーディングされた時、それは間もなく火がつく10年の中間点であった。政治、文化、精神性など、社会全般における世界的な変動が目前に迫っていた。そのサウンドと精神において、ジョン・コルトレーンの最も不朽の人気アルバムは、時代が求めていたサウンドであり、アイデアを体現したものだった。

コルトレーンのクラシック・カルテットのメンバーであるピアニストのマッコイ・タイナー、ベーシストのジミー・ギャリソン、ドラマーのエルヴィン・ジョーンズ、そしてレコーディング・エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーにとって、この日はいつもの、ニュージャージー州エングル・ウッドクリフスにあるスタジオでのセッションに過ぎなかった。しかし、コルトレーンにとっては、もっと個人的で深遠な意味を持っていた。それは、普遍性に対する心の奥底に抱いていた精神的ビジョンを表現し、「全ての道は神へと通じる」という哲学を、成長する聴衆と共有するためのチャンスだったのだ。

「私は音楽を通じて他の人々を幸せにする手段と特権を与えてくれるよう、謙虚に祈った」と、コルトレーンは『至上の愛』の中に書き、その祈りは普遍的で神聖な力に対するものだと述べている。「私は神の恩寵を受け取ったと感じている」

コルトレーンの祈りは叶えられ、今も尚、その祈りは叶えられ続けている。『至上の愛』は発売と同時に世界中から喝采を浴びた。このアルバムはベストセラーとなり、5万枚を売り上げてゴールド・レコードに輝き、グラミー賞にも2度ノミネートされた。このアルバムによって、コルトレーンの人気は彼の生涯において最高潮に達した。ダウン・ビート誌は、このアルバムを「コルトレーンの年」の象徴とし、毎年恒例の読者投票で3部門首位を獲得したコルトレーンを表紙に起用し、彼を同誌の殿堂入りを宣言した。

『至上の愛』の一般的な受け入れ方は、迅速であると同時に予想外のものであった。消費者が初めてこのレコードに針を落とした時、ほとんどの人はコルトレーンの音楽に対して何も準備ができていなかった。音楽構成やサウンド、そして特に公言された「目的」が想像の範疇を超えるものだったからだ。アルバムのインサートには、コルトレーンがリスナーに向けて「神への謙虚な捧げ物」として、このアルバムがどのような意図で制作されたかを示す詩と手紙を載せていた。もしこれがコルトレーンの音楽を初めて体験するのであれば、忍耐力と集中力が必要だった。長年のファンやミュージシャンにとってすら、挑戦的だった。

黒人アメリカ音楽に耳を傾けてきた多くの人々にとって、『至上の愛』は讃美歌のように響き、ゴスペルの礼拝リズムと共に進行することを体感するだろう。「パート1:承認」では、日曜日の朝のエネルギーを持つ馴染みのある讃美歌風のチャントが、温かい礼拝の呼びかけとして現れ、次に教会での執務が続き、個人と集団のメッセージが交互に挟み込まれ、最後に説教(「パート2:決意」「パート3:追求」)があり、静かで個人的な証言(「パート4:賛美」)と、厳かな祝福で締めくくられる。よく聴いてみると、楽曲はよりエキュメニカル(※キリスト教諸教派や諸宗教間での対話や協力を目指す運動、またはその思想を意味する。)に聴こえる。ブルースの要素が豊かで、ラテンのリズム・アクセントや東洋の民謡のニュアンスも感じられる。

スリーヴからレコードを取り出さなくても、これが深い精神的な意図を持っていることは一目瞭然であった。ジャケットに書かれたコルトレーンの言葉は、神と音楽、地上での苦闘と精神的な救済について語っている。コルトレーンが自分でアルバム・ノートを書くのはこれが最初で最後だった。そして、オープニング・トラックでアルバム・タイトルを唱和する彼の声が(彼がレコーディングに自分の声を加えたのはこれが初めて)『至上の愛』を深く、個人的で、無防備な証言として位置付ける決定打となった。

今日においても、『至上の愛』の音楽性とメッセージは、世代やジャンルを超えて広く影響を与え続けている。ヒップホップのプロデューサーやラッパーはこぞってアルバムをサンプリングし、ローリング・ストーン誌をはじめとするポップ/ロックのアルバム・ランキングでは、常に歴代トップ50(あるいは25、10)にランクインされている。ジャズ・アルバムがこうしたランキングにランク・インを長年キープしているのは非常にレアな事である。ジャズの世界では、このアルバムの地位は揺るぎないものであり、音楽と精神的な意図を織り交ぜる、あらゆるプロジェクトの試金石となっている。

『至上の愛』は、コルトレーンの普遍的な遺言であり、彼の宗教を越えた献身の説教であり、ナマステである。その登場からちょうど60年、神聖な繋がりと至高の愛を語る声は、再び聞こえにくくなっている。ある民族と別の民族を隔てる境界線は、曲がることなく深く続いているように見える。対立する世界において、コルトレーンの大作はかつてないほど重要な意味を持ち続けている。


アシュリー・カーンは、グラミー賞を受賞したアメリカの音楽史家、作家、教授、プロデューサー。ニューヨーク大学のクライヴ・デイヴィス・インスティチュート・フォー・レコーディング・ミュージックで教鞭をとり、受賞歴のあるカルロス・サンタナの自伝『The Universal Tone: Bringing My Story to Light』(Little, Brown, 2014)を共同執筆、カルロス・サンタナのドキュメンタリー『Carlos (2023)』(Imagine Documentaries/Sony Pictures Classics)のプロデューサーでもある。


ヘッダー画像: ジョン・コルトレーン。Photo: Bill Wagg/Redferns.