ECMのアーティストにECMについて話を訊く本企画、第12回目は2003年に『チェンジング・プレイセズ』で衝撃のデビューをを飾って以来、ECMから作品をリリースし続けている美メロ・ピアニスト、トルド・グスタフセンに話しを訊きました。
■My Favorite ECM Album
Masqualero 『Bande à part』
1枚だけを選ぶのはとても難しいけど、私が紹介しないといけないのは、ノルウェーの昔の録音で伝説のバンド、マスクアレーロの『バンド・ア・パート』でしょう。
アリルド・アンデルセン(b)、ニルス・ペッター・モルヴェル(tp)、トーレ・ブルンボルグ(ts,ss)、ヨン・バルケ(p)、そしてヨン・クリステンセン(ds,perc)というノルウェーで最も重要な大御所たちが、まだ若かったころに一堂に会し録音した1986年作品です。
まずテクスチャーがとても特別です。とても新鮮で、アレンジ、各々の演奏、そしてメロディも美しいし、インタープレイも見事で、特にヨン・バルケのピアノの演奏は僕に大きなインスピレーションを与えてくれました。アメリカのジャズとは全然違うのに、どこかアメリカのジャズともつながっている感じが僕にはとても興味深く、音楽として心に響く、そしてマインドを刺激してくれます。
■ECMと契約したきっかけ
自分たちで初めてトリオ・アルバムを録音していた時、そのスタジオにマンフレート・アイヒャーがそのスタジオにたまたま来て、僕たちのエンジニアからその録音テープを聴き、興味を持ってくれECMからのデビューが決まりました。それでマンフレートがプロデュースしてくれて完成したのが『チェンジング・プレイセズ』(2003年)です。
■あなたにとってマンフレート・アイヒャーとは?
とても先見的な目がある人、ある意味預言者的な人だと思います。とても明確な強いヴィジョンを持った人で、その明確なメッセージはとても重要なものでそれを届けなければいけないということも知っている人です。プロデュースという点においては直感、自分の耳で全て進めていく人で、それがなぜできるのかというのは最高のミュージシャンたちと最高の音楽をずっと一緒に体現してきた人だからだと思います。また、その一方、中身は子どものような人であるので、いやなことは嫌とはっきり言い、うまくいっているときには最高に喜ぶといったような子どもっぽさも魅力的な人です。
■ECMに期待することは?
難しい質問です。今までもそうであったように、本当に深いところでフルなサウンドを奏でて、リスナーたちを本当に音の世界に浸らせてくれるような音楽をこれまでと同じように作ってほしい。きっとずっとそうであってくれると思うのだけど、聴いている人たちを旅に連れ出してくれるような、ある意味終始一貫してメディテーション感覚を味わえるようなアルバムを作ってくれると期待していますし、その姿勢を守ったまま、どんどん新鮮な感覚を取り込んで新たな方法でそういったアルバムを作り続けるレーベルであってほしいと思います。やっぱりアートとしての音楽に対する感謝の念とか。愛情みたいなものを持ち続けていくだろうけど、ずっとそうあってほしいと思っています。
トルド・グスタフセン『オープニング』
発売中
Header image: Tord Gustavsen. Photo: Hans Fredrik Asbjørnsen / ECM Records.