2019年に創立50周年企画を迎えたECMレーベル。その所属のアーティストにECMについて語ってもらう「ECM artists talking about ECM」。久々になる第8回目は、初のECMリーダー作をリリースしたピアニスト/コンポーザー、田中鮎美に語ってもらった。
■My Favorite ECM Album
ヤン・ガルバレク-ボボ・ステンソン・カルテット / 『ウィッチ・タイ・ト』
(Jan Garbarek-Bobo Stenson Quartet / Witchi-Tai-To)
この作品が初めて聴いたノルウェー・ジャズでした。この作品の空気感がすごく私にとって新鮮だったのを覚えております。サクソフォンの音の含む空気とかが、今まで聴いたジャズ、それまではアメリカのジャズを聴いていましたが、それらとは違っていてとても新鮮でした。また、アンサンブルに関しても、間を生かした、お互いを尊重した形で、それらがとてもいいなと思いました。
■ECMと契約したきっかけ
2017年、ノルウェーのドラマーThomas Strønenのグループ Time is a Blind GuideのECMアルバム『Lucus』の録音に誘ってもらい参加しました。その時にアルバムのプロデューサーとして録音に立ち会っていたマンフレート アイヒャーに出会いました。2018年にはThomasとMarthe Leaのトリオのレコーディングで今年の3月に発表された『Bayou』というアルバムを製作しました。自分のトリオでの録音の話は以前からしていましたが、今回のアルバム『スベイクエアス・サイレンス-水響く-』は自分たちで録音した音源をマンフレートに送ったところ、それをECMから出さないかとお話をいただきリリースすることになりました。
■あなたにとってマンフレート・アイヒャーとは?
尊敬する人です。私はECMレコードから出た音楽をたくさん聴いてきましたし、それに支えられたところがあります。
音楽を通じて出会えたことによって、彼の優しさ、感性、音楽への深い愛情と誠実さ、情熱を近くに感じられたことは私の人生において幸運なことの一つであります。ミュージシャンとしてレコーディングに参加するわけではないのに、音楽に大きな影響を良い意味で与えられる彼はやはり特別だと思います。レコーディングの時は音楽を瞬時に深く理解されているのに驚きました。彼の一言で大事なことにハッと気づかされたり、彼がスタジオにいることにより音楽に羽が生えて、羽ばたいていくような感覚がありました。
■未来のECMは?
音楽の力はささやかなものかもしれませんが、他の芸術と同じようにやはり音楽は素晴らしいものです。じっくりと音に耳を澄ませる時間は私たちに豊かさを与えてくれたり、この世界との繋がりを与えてくれるように思います。私のやっている音楽はどちらかと言えば大衆受けするものではないかもしれませんが、そんな私の音楽をマンフレートが信じ、リリースを決めてくださったことに意味を感じます。
私はノルウェーの音大で幸い6年間無償の教育を受けました。卒業後もツアーやアルバム制作の支援などをノルウェー政府や音楽機関にしていただき、それらの経験が私の音楽の原点の一つになっています。音楽家が成長する環境が必要なように、リスナーが新しいものや一見親しみがないものに対して開かれた良い耳や精神を持つのにも、良い環境が必要だと思います。ECMレコードのように音楽を大事に扱うレーベルが重要なレーベルとして50年以上存在していることは素晴らしいことで、これからも続かれることを望みます。そしてそれが人々の人生や社会において大切な意味を持つことを期待し、私も一人の音楽家としてその方法を探し求めているところです。
田中鮎美トリオ『スベイクエアス・サイレンス-水響く-』
発売中