アーティストのことは、そのアーティストがどんなアーティストと仲が良いかを見れば大体分かるものだ。例えばシャバカ・ハッチングスは、数多の演奏家、DJ、レコード・レーベルと音楽的な関係を築いて来た。2016年にブラウンウッズ・レコーディングスの代表ジャイルス・ピーターソンと契約し、現在はインパルス!レコーズに所属するハッチングスは、生まれながらに音楽にどっぷりな生活を送った。彼の父アヌム・リャポは、ルーツ・ラディックス、アルトン・エリス、シスター・ラヴなどのレゲエ・アーティストのアルバム・ジャケットをデザインしていた。

クラシックを学んだクラリネット奏者であったハッチングスは後にサックスと出会い、UKジャズ・グループのシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ、サンズ・オブ・ケメット、コメット・イズ・カミングの創設メンバーとなった。彼の活動範囲は、スピリチュアル・ジャズの象徴である故ファラオ・サンダース(彼はフローティング・ポインツが2023年にハリウッド・ボウルで行ったコラボ・アルバム『Promises』の公演で、ハッチングスを指名しテナー・サックスを演奏させた)から、絶賛されたアルバム『ニュー・ブルー・サン』でハッチングスとフルートのデュエットを披露したアンドレ3000まで多岐に渡る

こうした数々のコラボレーションがあるにもかかわらず、2022年発表のEP『Afrikan Culture』に続く最新アルバム『美の恵み』が初のソロ・アルバムであることに驚愕する。ハッチングスはサックスとクラリネットを脇に置き、彼の肺活量、呼吸、エネルギー、そしてミューズを尺八に注ぎ込み、ニュアンス、深み、忍耐力、そして凡人と天才を隔てる、得も言われぬ何かを伝える作品を作り上げた。

以下、シャバカ5つの名場面をお届けする。

シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ「Mzwandile」

1984年にロンドンで産まれたハッチングスを初めて耳にしたのは、ザ・ヘリオセトリックスとエチオピアのレジェンド、ムラトゥ・アスタトケが2009年にStrutからリリースしたアルバムだったが、ハッチングスが初めて大きな注目を集めたのは、DJであり時代の仕掛人と言えるジャイルス・ピーターソンの目に留まり、シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズがブラウンスウッド・レコーディングスと契約した時だった。このプロジェクトは、父親のルーツであるバルバドス(ハッチングスは幼少期をそこで過ごした)から、ロンドンのレゲエ、ダブ、トースティング、カリプソ、ソカ、ソウル、ジャズ、ファンクに至るまで、ハッチングスが様々な影響を受けていることを「Mzwandile」のような曲で確認することができる。2017年、ニューヨークのライブハウス、ル・ポワソン・ルージュで開催されたウィンター・ジャズ・フェスティバルに出演したシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズはこの曲を演奏し、大絶賛された。


ザ・コメット・イズ・カミング NPR Tiny Desk Concert

デュオ・バンド、サッカー96のファンであったハッチングスは、サックスを持って彼らのステージ脇にそっと近付いた事がある。ダナローグことキーボーディストのダン・リーヴァースと、ベータマックスことドラマーのマックスウェル・ホウレットからステージに招かれたハッチングスは、彼らとトリオになり、まるで宇宙で収束する3本のレーザービームの様に、まばゆいばかりの音楽エネルギーを放った。キング・シャバカ、ダナローグ、ベータマックスの3人は合体し、ザ・コメット・イズ・カミングを結成する。トリオは3枚のEPと4枚のアルバムを発表している。2019年にインパルス!レコーズからデビュー・アルバム『トラスト・イン・ザ・ライフフォース・オブ・ザ・ディープ・ミステリー』をリリースして間もなく、3人はNPR本社に集まり、Tiny Desk Concertを収録した。ぜひ観てみよう。


サンズ・オブ・ケメット 「ピック・アップ・ユア・バーニング・クロス」

ハッチングスのプロジェクトの中でも、力強く響き渡るチューバをふんだんに使った力強いサウンドで、すぐにそれとわかるサンズ・オブ・ケメットは、セブ・ロッチフォード(ポーラー・ベア)とトム・スキナーという2人のドラマーと、ハッチングスとオーレン・マーシャル(後にテオン・クロスに交代)という2人の管楽器・金管楽器奏者で誕生した。バンガーが2人にブロワーが2人という通常のカルテットではないが、4つの才能が1つに収束することでその力を如何なく発揮させる。 ゲスト・ヴォーカリストやMCと組むと特にその威力は増大する。このエネルギーを強調するため、インパルス!レコーズとグループは 「ピック・アップ・ユア・バーニング・クロス」のライブ・テイクをリリースした。彼らの最後のアルバムとなった2021年リリース『ブラック・トゥ・ザ・フューチャー』に収録されたこの曲には、ムーア・マザーとエンジェル・バット・ダヴィドがゲスト参加している。


ロンドン・ブリュー

2023年発売のコラボレーション・アルバム『ロンドン・ブリュー』ほど、UKジャズ・シーンの爆発的な性質をうまく捉えたアルバムはない。このアルバムには16人のプレイヤーが集結し、マイルス・デイヴィスが画期的なフュージョン・アルバム『ビッチェズ・ブリュー』で作り上げたバイブとスピリットに焦点を当てながら制作された。当初は1970年にレコーディングされた『ビッチェズ・ブリュー』の50周年を祝うコンサートとして構想されていたが、コロナのパンデミックによりコンサートが中止になったため、プロデューサーのマーティン・テレフェはプロジェクトを再考せざるを得なくなった。そこで2020年後半、北ロンドンにあるチャーチ・スタジオに演奏者たちが集まり、5日間に渡りジャム・セッションとブレインストーミングを行った。『ロンドン・ブリュー』は、セッションの見事なコラージュであるだけでなく、ロンドンにおける2人の大御所候補、ヌバイア・ガルシアとハッチングス(サンズ・オブ・ケメット、ザ・コメット・イズ・カミング、ジ・アンセスターズなどのメンバーも参加)がソロの応酬を聴かせている


シャバカ・ウィズ・フローティング・ポインツ・アンド・ララージ 「アイル・ドゥ・ホワットエヴァー・ユー・ウォント」

ここ数年、ハッチングスはシフト・チェンジしただけでなく、乗り物も乗り換えた。サックスを止めて尺八に専念し、尺八をマスターするための旅に乗り出したのだ。金管楽器を吹く彼の音色に共感し、敬愛していたファンにとって、この変化は驚きだった。ハッチングスは子供の頃クラリネットに惹かれ、ギルドホール音楽演劇学校でクラリネットを習った。

「サックスで沢山の作品を作ったりコラボレーションをしているから、あなたはサックス奏者だと言われる。僕は正直なところ本当にサックス奏者ではない」と今年初めにニューヨーク・タイムズ紙に語っている。ガーディアン紙の記事でハッチングスは、尺八の習得には険しい学習曲線があると説明し、16世紀の楽器である尺八は「音を出すのに半年から1年かかり、レパートリーを演奏するのに十分なテクニックを身につけるのに7年から8年かかる」と語った。エレクトロニック・ミュージック・プロデューサーのフローティング・ポインツ、ニューエイジ・チターの巨匠ララージ、そしてドローン・フルートを奏でるアンドレ3000とのコラボレーションによる「アイル・ドゥ・ホワットエヴァー・ユー・ウォント」が示す通り、ハッチングスは尺八の天才でもあるようだ。


ランドル・ロバーツは受賞歴のある音楽・文化ジャーナリストで、元ロサンゼルス・タイムズの音楽担当編集者。


ヘッダー画像: シャバカ・ハッチングス。写真: Atiba Jefferson / Impulse! Records.