「1961年1月当時、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズは世界中で大スターだったが、騒々しく煙の充満したジャズ・クラブで演奏するというマンネリから抜け出せていなかった。彼らが日本に到着し、日本公演を行った最初の米国人ジャズ・ミュージシャンになった時、全てが変わった」と、現ブルーノート社長ドン・ウォズは語る。

このアルバムは、1961年1月14日、東京・日比谷公会堂の優雅な雰囲気の中で、ジャズ・メッセンジャーズ最高のラインナップ(アート・ブレイキー:ドラムス、リー・モーガン:トランペット、ウェイン・ショーター:テナー・サックス、ボビー・ティモンズ:ピアノ、ジミー・メリット:ベース)が演奏する様子が収められている。佐藤功一が設計し1929年に完成したこのアールデコ様式のコンサート・ホールは、ジャズ・メッセンジャーズ初の日本ツアーに最適な舞台となった。

ウェイン・ショーター、リー・モーガン、ジミー・メリット、アート・ブレイキー。Photo: Hozumi Nakadaira/Blue Note Records.

このツアーは、音楽と政治がかつてないほど密接に結びつきつつあったアメリカ史上極めて重要な時期に行われた。黒人ジャズ・ミュージシャンのグループにとってこの経験は深く、長く続くものとなる。「ちょうど公民権運動の真っ最中の来日だったんです。日本では空港で大勢の人たちが集まり、大歓迎されました。館内放送では父の曲が流れていたんです。当時の黒人アメリカ人にとって、それは本当に馴染みのない出来事で、そういう事が沢山あったんです」と、アート・ブレイキーの三男、タカシ・ブレイキーは語る。

ボブ・ブルーメンソールによるエッセイ、ウェイン・ショーターとドン・ウォズの対談、タカシ・ブレイキーやルー・ドナルドソン、渡辺貞夫といったミュージシャンたちによる考察、そして大蔵舜二と中平穂積氏による美しい写真など、非常に充実したブックレットのおかげで、このブルーノートの愛情溢れるリリースは、歴史的資料としての価値を更に引き上げている。

このツアーは、東京を拠点とする興行会社であるアート・フレンド・アソシエーションが、来日してほしいアメリカのジャズ・グループを日本の音楽ファンにたずねたことから実現した。タカシ・ブレイキーはライナーノーツでこう説明している。「何千、何万という日本のファンがザ・ジャズ・メッセンジャーズの曲を暗譜していて、コンサートではリズムに合わせて一斉にうなずく姿が見られました」

この歓迎を受けて彼らの実力は頂点に達し、ジャズ・メッセンジャーズは記録に残る最高のジャズ・ライブ・セッションをレコーディングした。アメリカと日本のジャズのつながりという点でも重要なものとなった。期待通り、このアルバムにはジャズ・メッセンジャーズを世界的に有名にしたナンバーが数多く含まれている。

その最大のヒット曲が、1958年にブルーノートで初めて録音されたボビー・ティモンズ作曲の「モーニン」だ。ティモンズのピアノで曲が始まるや否や大きな拍手がわき起こるのが、ジャズ・メッセンジャーズが日本でスターとなった証だ。もうひとつのブレイクスルー・ナンバーは「ダット・デア」だ。同じくティモンズが作曲したハード・バップで、ここでは12分間に渡って堂々と演奏されている。これは、最高潮を極めるバンド・リーダーによって刺激されたジャズ・メッセンジャーズ個々のミュージシャンシップと、バンドとしての直感の両方を併せ持つショーケースである。それはディジー・ガレスピーの「チュニジアの夜」の息を呑むようなヴァージョンで最も顕著に表れている。曲が始まって10分ほどの箇所で、ウェイン・ショーターのサックス・ソロが最高潮を極めると、ブレイキーが「ウィップ・イット(もっとやれ)」と檄を飛ばしている声を確認することが出来る。

アート・ブレイキー自身の演奏について、ドン・ウォズはライナーノーツにこう記している。「彼は伴奏の名手であり、激しい激情と集中した内省の両方を呼び起こすことができる、ダイナミックでドラマチックなミュージシャンだった。彼は他の誰にも真似のできないスウィングが出来て、彼のドラミングはすべてのミュージシャンに、全力を尽くして最高の演奏をするよう促したんだ」。「チュニジアの夜」の途中でのポリリズム・ソロや、23分にも及ぶチャーリー・パーカーの 「ナウズ・ザ・タイム」の冒頭5分間に渡って聴こえる雷鳴にも似たサウンドを聴いてみれば、他の伝説的プレイヤーたちがそれにしっかり応えていることが分かるだろう。

このコンサートは、日本における米国ジャズとアート・ブレイキー個人の双方にとって、永遠に遺る遺産となるだろう。タカシ・ブレイキーはライナーノーツでこう記している。「父が最初の訪問以来、30年近くほぼ毎年日本を訪れ、生涯に渡り日本文化に愛情を注ぎ続けたことは、驚くに値しません」

アンディ・トーマスはロンドンを拠点に活動するライターで、『Straight No Chaser』、『Wax Poetics』、『We Jazz』、『Red Bull Music Academy』、『Bandcamp Daily』に定期的に寄稿している。また、Strut、Soul Jazz、Brownswood Recordingsのライナーノーツも執筆している。


ヘッダー写真: アート・ブレイキー。Photo: Hozumi Nakadaira/Blue Note Records.