ジャズの新時代を切り開き、その後の世代のミュージシャン、作家、アーティストに影響を与えつづける先駆的な作曲家/即興演奏家/アルト・サックス奏者、チャーリー・パーカー。
生誕100年を記念し、バードの軌跡、その偉大なる所以を岡崎正通さんに2回にわたってご紹介頂きます。
ジャズ史を塗り替えたチャーリー・パーカー
ジャズの世界に歴史的な変革をもたらした天才アルト・サックス奏者のチャーリー・パーカー。今年(2020年)は、そんなチャーリー・パーカーの生誕100周年という記念すべき節目の年にあたっている。ジャズの流れを塗り替えるほどの斬新な手法を編み出し、新しい響きを創造していったミュージシャンが何人かいるけれども、もちろんチャーリー・パーカーは真っ先に挙げられるべきひとり。1940年代にパーカーが生み出した“ビ・バップ”と呼ばれる演奏スタイルは、それまでのジャズ演奏の概念を変えるほどの革新的なもので、メロディー、ハーモニー、リズムのすべてに変化をもたらした。“ビ・バップ”はニューヨークのハーレムや52丁目のクラブで日夜繰りひろげられたジャム・セッションから生まれていったと言われていて、けっしてパーカーひとりの手によって誕生したものでなく、トランペッターのディジー・ガレスピーやピアノのセロニアス・モンク、ドラマーのケニー・クラークら何人かの進歩的なミュージシャンたちの共同作業によって生まれたものであるかもしれないが、それでもパーカーの存在は絶対的に大きなものがあった。もしチャーリー・パーカーがいなかったならば、のちのジャズの姿はまったく違ったものになっていたのではないかと思わせるほど、パーカーの存在は圧倒的なものがある。いっぽうで若くして麻薬と酒に溺れ、34歳で命を落としたパーカーは、よく“破滅型の天才”と呼ばれたりしたが、彼が新しい演奏方法をつうじてジャズの精神までを変えたことは、どんなに評価しても評価し過ぎることはない。そしてパーカーの影響は1950~60年代のハード・バップ、あるいはモダン・ジャズと呼ばれたプレイヤーたちに絶大な影響を与えていっただけでなく、半世紀以上の時を超えて現代に生きるミュージシャンにも影響を与え続けている。
チャーリー・パーカーとビ・バップ
チャーリー・パーカーは1920年8月の生まれ。彼が少年時代を過ごしたアメリカ中部の町カンサスシティは、ニューヨークの洗練とはひと味違ったワイルドな力強さをもつスイングが溢れている町でもあった。15歳でプロ・ミュージシャンの仕事を始めたパーカーは、まだ結成されたばかりのカウント・ベイシー楽団の演奏に熱中。とくにバンドのテナー奏者だったレスター・ヤングのプレイに心酔していった。地元で強力にスイングしていたジェイ・マクシャン楽団のメンバーになり、バンドがニューヨークに進出したのを期にニューヨークに留まってジャム・セッションに参加するが、この頃から素早いフレーズを目まぐるしく吹きまくる、のちに“ビ・バップ”と呼ばれるようになる演奏スタイルを急速に完成させてゆく。
“ビ・バップ”のリーダーとしてパーカーが試みたのは、それまでの曲につけられていたコード(和声)のあり方を一歩も二歩も推し進めて、より細かな進行の中に新しい即興プレイの可能性を求めてゆくことだった。それまでのスイング・ジャズがもっていた揺れるようなビートは、多くの人々にとって“踊るための音楽”だったが、そんなスイング・ジャズの常識を塗り替えてアドリブ・ソロを前面に打ち出し、踊れるだけでなく“聞くための音楽”としての表現を確立していったのもパーカーの大きな功績といえる。燃えるような情熱がほとばしるパーカーの吹奏。彼の演奏は、出だしの数音を聴いただけでパーカーのものと分かる圧倒的な個性をもっていた。
同時にパーカーは、それまでスタンダード・ナンバーとして知られて演奏されてきた曲のコード進行を使いながら、多くの複雑なメロディー・ラインをもった曲を創作。それらはビ・バップの定番曲として、いまなお多くのプレイヤーたちによって演奏され続けている。ブルース・コードを使った<オー・プリヴァーブ><ビリーズ・バウンス>などはもとより、“インディアナ”は<ドナ・リー>に、“ハウ・ハイ・ザ・ムーン”は<オーニソロジー>、そしてリズム・チェンジと呼ばれた“アイ・ガット・リズム”のコード進行は<ムーズ・ザ・ムーチェ>、<スウェディッシュ・シュナップス>といったように、既成曲も多くのバップ・オリジナルに生まれ変わった。“ビ・バップ”の特徴は、目まぐるしいまでに激しい上下を繰り返すメロディー・ラインにあるが、そのプレイをつうじてハーモニーの可能性も飛躍的に拡大。素早いフレージングに対応するかのように、ビートの中軸もなめらかなシンバルのレガートへと移ってゆく。そんな新しい表現方法によって、パーカーの音楽はジャズの表現に深さと多様な豊かさを与え、柔軟性ももたらしていったのだ。
・ハウ・ハイ・ザ・ムーン
・オーニソロジー
・アイ・ガット・リズム
・ムーズ・ザ・ムーチェ
・スウェディッシュ・シュナップス
■作品情報
『GREATEST CHARLIE PARKER』
『THE SAVOY 10-INCH LP COLLECTION』
『ニュー・サウンズ・イン・モダン・ミュージック』
Header image: Charlie Parker. Photo: William P. Gottlieb/Ira and Leonore S. Gershwin Fund Collection, Music Division, Library of Congress.