ヴァーブ時代のチャーリー・パーカー

 そんなチャーリー・パーカーの生誕100年を記念して、8月~10月にかけて多くのアルバムがリリースされる。まず「Greatest Charlie Parker」(8月12日発売)はパーカーの全吹込みの中から選りすぐった45曲。パーカーが書いた自作23曲の演奏を収めた“オリジナルズ”と、スタンダード・ナンバーを中心にした“スタンダーズ&カヴァーズ”からなる2枚組で、それぞれが吹き込まれた年代順に収められている究極のベスト・アルバム。パーカーの活動を俯瞰するとともに、その魅力を手っ取り早く楽しむには好適な作品である。そして9月2日には、パーカーが40年代末から54年にかけて、彼の活動の中期から後期といわれる時期にヴァーブに録音した名作8枚が一挙にリリースされる。すでにジャズ界の頂点をきわめていたチャーリー・パーカー。これらの演奏はプロデューサー、ノーマン・グランツの肝いりのもと、彼のクレフに吹き込まれたものだが、1957年になってグランツの手によってヴァーブ・レーベルがスタートしたときに、「The Genius of Charlie Parker」というシリーズで、8枚のLPにまとめられたものである。この頃のパーカーのプレイからは、ビ・バップをきわめた完璧な表現の中に、いっそう成熟した味わいを感じさせる吹奏を聴くことができる。どこかに風格のようなものを漂わせながら、余裕たっぷりにアルト・サックスを吹き鳴らしてゆくチャーリー・パーカー。そんなパーカーの精髄ともいえるプレイをたっぷり味わうことのできるのが「ナウズ・ザ・タイム+1」(Vol.3)「バード&ディズ+3」(Vol.4)といった名アルバムで、前者は52年から53年にかけて吹き込まれたパーカーのカルテットによるセッション。伝説的な<ナウズ・ザ・タイム><コンファメーション>をはじめとするアドリブ・ソロは、まさにビ・バップ・フレーズの洪水といった感がある。

・ナウズ・ザ・タイム

・コンファメーション

いっぽう後者は久しぶりのガレスピーとの再会セッションで、ピアノをセロニアス・モンクが弾いている。巨匠どうしの顔合わせというだけでなく、パーカーとモンクが共演している唯一のスタジオ録音という意味でも計り知れない価値をもっている作品ということができよう。もう一枚「スウェディッシュ・シュナップス+4」は若きマイルス・デイヴィスを従えたセッションが含まれていて、くつろいだ感じの中に円熟味あふれるパーカーのプレイが聴かれる。これらのアルバムで演奏される曲のうち、大半がパーカーのオリジナルで占められているのも、作品の価値をいっそう高めている。

・K.C.ブルース

この時期のパーカーはコンボ演奏だけでなく、さまざまにバラエティをもつ編成で多くの意欲的な試みをおこなっていったのも注目される。このあたりはプロデューサー、グランツの意向によるところが大きいと思われるが、それもまたヴァーブ時代のパーカーの面白さ! 「ナイト・アンド・デイ」(Vol.1)はジョー・リップマンがアレンジしたビッグバンドやストリングスとの共演。こちらはスタンダード曲ばかりが演奏されるが、豪華なバックのサウンドの中からパーカーのプレイがくっきりと浮かび上がってくるのが素晴らしい。超絶テンポによるタイトル曲や<ラヴァー>など、一糸乱れぬパーカーの壮絶なプレイ。そしてエキゾチックな<テンプテーション>のようなポップ曲などでも、パーカー節の素晴らしさは変わらない。“ウィズ・ストリングス”アルバムの古典として知られる「エイプリル・イン・パリ+4」(Vol.2)は、ムード・ミュージック的なものとは一線を画した“ウィズ・ストリングス”ジャズの草分けとなったもので、やはりパーカーの吹奏が圧倒的な存在感をもって迫ってくる。ちなみにパーカーは、このようにストリングスと共演するのが大好きだったという。パーカーが新しいジャズ表現の可能性を求めていた、ひとつの証左と言えるかもしれない。

・ラヴァー

・テンプテーション

そしてパーカーがラテン曲をプレイする「フィエスタ」(Vol.6)。アフロ・キューバン・ジャズの先駆者だったマチート楽団にゲストとして参加したものや、パーカッションを加えて陽気なラテン・ナンバーを演奏。<ティコ・ティコ><エストレリータ>など、どんなにポップなラテン曲をとりあげても、彼が演奏するとまぎれもないパーカーの音楽になった。浮き浮きするような愛らしいオリジナルも楽しい聴きものだ。「ジャズ・パレニアル」(Vol.7)はコンボ演奏のほかに53年、ギル・エヴァンスがアレンジした3曲が含まれているのが聴きもの。コーラスのデイブ・ランバート・シンガーズも参加しているのだが、随所にギル・エヴァンスらしいハーモニーの妙が顔をのぞかせる。そして54年、パーカーのスタジオでの最後のレコーディングとなった「プレイズ・コール・ポーター」(Vol.5)。すでに体調を崩していたとはいえ、自身の壮烈な生きざまへの思いがしみじみと感じられて、これまた胸を打たれる一作になっている。

・ティコ・ティコ

・マイ・リトル・スエード・シューズ

   

■作品情報
『GREATEST CHARLIE PARKER』

  


Header image: Charlie Parker. William P. Gottlieb/Ira and Leonore S. Gershwin Fund Collection, Music Division, Library of Congress.