コロナ禍に活動を本格化させたトリオの音楽性の話はもとより、パキスタン出身のグラミー賞受賞シンガー、アルージ・アフタブとの活動、『Compassion』で取り上げたロスコー・ミッチェルをはじめとしたシカゴ前衛派からの影響、教育者、研究者としてハーバード大学で教えてきたことまで、ヴィジェイ・アイヤーに多岐に渡る活動について話を伺った。


——現在のトリオに感じている魅力を教えてください。

「タイショーンとは、2001年にニューヨークでやって以来、コンスタントにいろいろなセッティングで一緒にやってきた。素晴らしいミュージシャンだし、欠かせない兄弟、家族のようだよ。 リンダとも、2010年以来、会う機会が多かった。2012年から19年までカナダのバンフ・インターナショナル・ワークショップの芸術監督を務めていたので、そこに2人を呼ぶことも多かった。トリオで最初にやったのは2019年で、想像以上の結果だったね。強度があって、喜びもパワーもある。同時に特にリズム面に繊細さがあった。 それで、これはやり続ける価値があると思ったんだ。」

 

——以前のトリオ(ステファン・クランプ、マーカス・ギルモア)との違いは?

「4人とも大好きだから比較はしたくないけど、ゴールが違うんだ。スティーヴンとマーカスとのトリオが作り出したスペースは、リズムのアイデアを試行錯誤しながら、その時あったものを変えていった。例えば、複雑なリズム構造を如何にナチュラルに演奏するかとか、ピアノトリオという概念、フォーマット自体を新たには創造していった。でも、リンダとタイショーンの場合は、もっと全てが自然で自発的だ。何かを変えようとするのではなく、最初に音を出した時から直感的にスペシャルだと感じられたので、生まれるものを称賛しようという気持ちだった。」

——Compassion(思いやり)というタイトルの意味することを教えてください。

「前作『Uneasy』の時は、コロナがあり、たくさんの人が苦しみ、多くの死を経験した。 どうこれから続けていこうかという気持ちだった。実際、2021年の自分は続けることに不安(Uneasy)があった。『Compassion』のライナーノーツにも書いたように、今もその気持ちは続いていて、でも同時に、 人間がお互いに気持ちをフォーカスし合って、そこから復活していくにはどうしたらいいんだろうかという時には、もう不安だけでなくて、それに代わる思いやりの気持ちに自分たちが導いてもらうしかないんではないかと思ったんだ。」

——『Uneasy』リリース時のネイト・チネンによるインタビューで、あなたは「このトリオの構成では全員が手で音を出している。特に息を使わないので、身体との繋がりがとても触覚的だ」と述べていたのが印象的でした。手から表現を考えることについて、ぜひ話していただけますか?

「ピアノを歌うように弾けとか、ドラムにはそれぞれにヴォイスがあるとか、よく音楽を言葉で表す時にそういう言い方をするよね。実際はないわけだけど、でも、それは音楽が何であるかということの本質を捉えている。よくよく考えてみると、自分たちは空気も何も吹き込まない楽器を使って、そこから本当に歌うような、言葉が出るようなことをしようとしている。その感覚、コンセプト自体に自分はずっと分からないまま、惹かれているんだ。不思議だし、もっと突き詰めたい気持ちになる。

結局は、人間と声が繋がっているのだと思う。魂のようにね。でも、声は単に身体が空気を吸ってできてるだけであって、そこにそれ以上の関係はない。なのに、音楽の本質的なものになっている。これもミステリアスな部分だ。そう言いながらも、自分たちは手を使って作っている。それで想像力を逞しくしている。その関係を、自分はきっと死ぬまでエキサイティングな関係として捉え、分かろうとしてやってくんだろうなと思っている。」

後編につづく 


 

【作品情報 】

『コンパッション』 

2024年2月2日世界同時発売 

 

 

01.  コンパッション Compassion (Vijay Iyer)

02.  アーチ Arch (Vijay Iyer)

03.  オーヴァージョイド Overjoyed (Stevie Wonder)

04.  マエルストロム Maelstrom (Vijay Iyer)

05.  プレリュード:オリソン Prelude: Orison (Vijay Iyer)

06.  テンペスト Tempest (Vijay Iyer)

07.  パネジリック Panegyric (Vijay Iyer)

08.  ノナー Nonaah (Roscoe Mitchell)

09.  ホエア・アイ・アム Where I Am (Vijay Iyer)

10.  ゴーストゥルメンタル Ghostrumental

11.  イット・ゴーズ It Goes (Vijay Iyer)

12.  フリー・スピリッツ / ドラマーズ・ソング Free Spirits / Drummer’s Song (John Stubblefield / Geri Allen)

〈パーソネル〉 

ヴィジェイ・アイヤー(p) リンダ・メイ・ハン・オー(double-b) タイショーン・ソーリー(ds) 

★2022年5月、ニューヨーク、オクテイヴン・オーディオにて録音 

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Header image: Linda Oh, Vijay Iyer and Tyshawn Sorey. Photo: Ogata.