今年で創立53周年を迎えたECMレーベルは今年も続々とジャズ・ファン注目の新譜がリリースされている。ECMのアーティストにECMについて話を聞く本企画、第10回目は2015年の東京JAZZでのオーラが際立っていたトランぺッター、アヴィシャイ・コーエンに話してもらった。

Avishai Cohen. Photo: Sam Harfouche / ECM Records.

■My Favorite ECM Album
Codona / The Codona Trilogy (2008年)


収録アルバムは以下の3枚

Codona / Codona (1979年)
Codona / Codona 2 (1981年)
Codona / Codona 3 (1983年)


コドナだろうか。最初のアルバムが一番私の心に近いと思うが、3枚どれも外せない。私にとってドン・チェリーはとても影響が大きく、もちろんオーネット(コールマン)との録音も全て好きだが、私にとってはコドナの作品も同じくらい真の自由を表現していて、またコドナではトランペットだけではなくフルートも吹いているが、私にとっては最も好きなフルート奏者の一人でもある。

自由な演奏で音楽を作る自由さを感じられる。現在では様々なジャンルの枠を越えるというのはよくあることで、それほど驚く事もなくなったが、この1980年代初頭においては、このワールド・ミュージックというような音楽は彼らの存在は大きかったのではないだろうか。ドン・チェリーだけでなく、ナナ・ヴァスコンセロスとコリン・ウォルコットから成るこのトリオはとても強くて鮮明で大胆不敵で、20数年前に初めて聴いたのだが、私にとっては彼らの音楽が今でも一番好きだ。

■ECMと契約したきっかけ

私がECMのレコーディングに初めて参加したのはマーク・ターナーの2014年作品『Lathe of Heaven』)だった。で、そのときにマンフレートと一緒に録音をするのが楽しみだったのだが、マンフレートが病気になってしまい、彼がいない中でのNYレコーディングとなってしまった。その時、ヴィレッジ・ヴァンガードで1週間そのカルテットでライヴもあったのだが、マンフレートのスケジュールの関係でライヴの前にレコーディングしたものの、結局マンフレートが来れなくなってしまったので残念だった。

ライヴ後のレコーディングだったら、また作品は変わっていたと思う。とうことで、最初のECMレコーディング時にはマンフレート本人に直接会うことは出来なかったが、音楽を通じて出会うことは出来、その後連絡を取り合うようにはなれたので、ECM作品を録音したいとアプローチをしたら、温かく受け入れてくれたのだ。

初のECMリーダー作品『イントゥ・ザ・サイレンス』はとても評判がよく、フランスでは年間のベスト・アルバムに選ばれたり、トップ・セラーに入ったりしたので、お互いにとてもいい関係で、「とてもいい家を見つけられた」と思った。私の音楽をそのまま受け入れてくれる。それまでは姉のレーベル、Anzicからレコードを出していて、もちろん気心も知れているので自由にやらせてもらっていたので別のレーベルを探していたわけではなかったが、たまたまECMから連絡が来てマークのレコーディングに参加することになったら、もし別レーベルから自分のアルバムを出すとしたらECMしかないと思うようになり、チャンスをつかむことができた。

■あなたにとってマンフレート・アイヒャーとは?

彼は美しい男だ。そして音楽と美に関して美しい視点を持っている人。強い意見を持ちつつ、同時に信頼もできる。そういうことがあるからECMにはこんなに幅広い音楽が存在できるのだと思う。ECMには確かなサウンド、独特の美学があり、その作品によってクラシック、ジャズ、ワールド・ミュージック、アヴァンギャルド、スタンダードからロックまでさまざまな探求がされているが、それだけ門戸は開かれているのだ。ただ全ていいものであれば、ということ一つなのだ。とても頑固のようでいて、いいものであればオープンな人だと思う。

私が『ビッグ・ヴィシャス』の作品を作りたいと言って、まずはECMに話してみたら「もちろん!」と快諾してくれた、本当にこのような関係が築けて幸せだ。彼は楽曲のスタイルなどに関してどうこう思うわけではなく、その音楽が正しいところから生まれたものかどうか、そしてその音楽を最大限いい形で引き出すにはどうすべきかを考え、その音楽が向かいたい一番誠実な道へと導いてくれる。良い耳を持っているのと同時に直感もするどく、何かおかしいと感じるときにはすぐに教えてくれるんだ。とても強い意見を持っていながらも、実はとてもソフトな人でもある。レコーディング前に何かを私に指示することもない。、彼は本当に私と他のアーティストが自分たちの音楽を、そのまま持ってくることを望んでいるのだ。

そして、彼を信じて素直に演奏すれば、彼は最善の方法で私たちからいい音楽を引き出してくれる。マンフレートは自分がどうしたいというようなことはなく、「最も誠実な音楽が最善の音楽」なのです。エゴがあるわけではなく、自己中心的とは反対で音楽を中心に考え、いい音楽を世界に広めるのために彼の能力を最大限に発揮している。

■ECMに期待することは?

僕たちがしていくことをこのままECMで続けていければなと思う。


アヴィシャイ・コーエン『ネイキッド・トゥルース』
発売中

Header image: Avishai Cohen. Photo: Sam Harfouche / ECM Records.