2019年に創立50周年企画を迎えたECMレーベル。その所属のアーティストにECMについて語ってもらう「ECM artists talking about ECM」。第6回目はビリー・ハート・カルテット、そしてマーク・ターナーとのデュオの来日公演で多くのファンを魅了したピアニスト、イーサン・アイヴァーソン。

■My Favorite ECM Album
・ケニー・ホイーラー『ヌー・ハイ』
『Gnu High』 Kenny Wheeler

・リッチー・バイラーク『エルム』
『Elm』 Richard Beirach

ECMのアルバムで素晴らしいものは本当にたくさんあって選べないのだけど、マンフレート・アイヒャーの仕事の最も素晴らしい部分は、そのミュージシャンのベストの時期にベストな状況で録音をして作品として残していること。その点においても、この2作品は素晴らしい作品なんだ。ケニー・ホイーラーは何をはじめに聴けばいい?と聞かれたらまずこの作品をお勧めするしリッチー・バイラークに関してもまずはこの作品を聴いてほしいと思うよ。

■ECMと契約したきっかけ
ECMの録音に携わったのは、ビリー・ハートのカルテットの2012年作品『All Our Reasons』。このきっかけはNYのECMのヘッド、サラ・ハンフリーズと話をしていたらサラがマンフレートに僕とビリーのことを連絡してくれたのがきっかけなんだ。ほとんどこういったことは個人的な付き合いの中で話が進むもの。マンフレートと僕は直接話すようになったけど、僕は彼と話すのがとても楽しいし、彼も僕と同じように思ってくれていると思う。彼も僕も本当に音楽が好きな上に、彼は素晴らしい耳を持っていて、趣味もいいし天才。音楽の話を聞くとしっくりくるんだ。

■あなたにとってのマンフレート・アイヒャーとは?
初めてマンフレートに会ったのはビリー・ハートとのレコードを作る1年か2年前のことだったと思う。もちろん僕も小さい頃からECMを聴いてきたから、会ったときはうれしかったよ。
ブランドって素晴らしいと思う。ECMは一つのブランド。
どちらのレーベルも今は少し変わったかもしれないけど、ある時期のブルーノートやドイツ・グラモフォンは大体こんな音だなっていうことが分かるように、ECMもこんな感じかなというのが一貫しているよね。音楽をオーガナイズするというのは本当にすごいことだなって思う。ECMもクラシックを取り入れた時と、マリオン・ブラウンなどを出したときに少し変わったかもしれないけど、常にその時代に起こっていることを捉え、その時代に彼なりに貢献をしようと思い彼の声として作品を残してきたのがマンフレートであり、ECMだと思う。そして、結果的には多くの名盤を生んできたのさ。
マンフレートと一緒に働くのは、僕はとてもやりやすいと思うよ。でも誰もがこんな風には言わないだろうね。僕は、持ち場持ち場の役割分担されたプロフェッショナルがそれぞれバッチリ仕事をするという職場が好きなのだけど、例えばハイレベルのリスナーを目の前にしたら彼らの耳を満足させるよう真剣に演奏しようと思うように、マンフレートの前では最高の演奏をしようと思うんだ。アルフレッド・ライオンやルディ・ヴァン・ゲルダ―なんかもそういう存在だったと聞いているよ。シンバイオシスだね。

■未来のECMに期待することは?
レコード業界がこの先どうなるかは分からないよね。とても難しいことは確かで、ストリーミングの時代がもっと進んだらどうなるのだろうね。ただ僕はパフォーマーでもあるので本当によかったと思う。そうでないミュージシャンたちは失業してきているから。でもそんな中でもECMはほとんどのレコード会社と違ってまだまだこれからも生き残っていけると思うよ。.

■イーサン・アイヴァーソン選曲によるECMのプレイリスト“ECM Artist’s Choice” 全53曲、8時間43分ECMの世界を存分にお楽しみ下さい。

イーサン・アイヴァ―ソンは自身のカルテット作品『Common Practice』を9月にリリース。


Header image: Ethan Iverson. Photo: Monica Frisell / ECM Records.