今年で創立53周年を迎えたECMは今年も毎月精力的に注目作品をリリースしています。ECMのアーティストにECMについて話を聞く本企画、第11回目は8年ぶりに自身のカルテット作品を発表したばかりのマーク・ターナーに話しを訊きました。
■My Favorite ECM Album
ケニー・ホイーラー 『GNU HIGH』
一番のお気に入りといえるかどうかは別としてケニー・ホイーラーとキース・ジャレットも一緒に演奏しているこの作品は大学生のときによく聴きました。とてもシンプルなレコードです。当時バークリーにいた人たちはみんなこの作品を聴いていました。あとキース・ジャレットの『パーソネル・マウンテンズ』、『マイ・ソング』なども。
■ECMと契約したきっかけ
エンリコ・ラヴァの2009年『New York Days』が初めて参加したECMのレコーディングでした。そのあとFlyのアルバムやステファノ・ボラーニのアルバムにも参加し、そんなこんなでマンフレートが僕にECMでレコードを出さないかと提案をしてくれました。
■あなたにとってマンフレート・アイヒャーとは?
なんて言えばいいのでしょう。彼は典型的なゲルマン人という感じです。芸術のパトロンであると同時に、芸術の祖先であるような人です。ドイツにはドラマチックな音楽文化が根付いています。ドイツには長年音楽があり、それを表現する言葉があります、日本語はその点どうだか私は知らないのですが、英語圏にはそういった言葉はないのです。それはとても美しい。少なくともバロック時代やそれ以前には、そういった言葉が多く使われていたのだと思います。彼はその音楽の伝統と音楽の記述とを具体的に持っているのです。マンフレートは音楽に対してとても情熱的で、フランス人とは全く違います。ヨーロッパでも全く異なる文化なのです。ドイツ語は物事をはっきり直接的に話す言語。フランス人はもっと漠然としていて牧歌的ともいえます。マンフレートはスタジオ作業において何かが正しくなかったり、彼がそれを好きでない場合、とても親切に対応してくれますが、はっきりと音楽的ヴィジョンを示すのです。もしアーティスト本人が強いアイディアを持っていなかったら、マンフレートが全てを示してくれます。誰が最初に演奏するか、ドラムはどうするかなど具体的に指示を出してくれるのです。でも私のようにヴィジョンがはっきりしているアーティストには何も言いません。どちらの場合の対応も素晴らしいのです。
あとミキシングに関しても、ヴィジョンがはっきりしていて、ECM独特のサウンドというのはやはりマンフレート本人なのです。リヴァーブが特に有名だと思いますが、それぞれの楽器のレベルなどに関しても、とても独特でクリアな音なので私は大好きです。いろいろなことを言う人はいますが、何が起ころうともそのレコードはいい音、ECMの真骨頂ともいえるようなサウンドになります。そして曲の順番を決めるのも上手。そういったことは大事なのです。スタジオはライヴとは全く違っていて、それ自体が芸術的なプロダクションで、もしこういう詳細に注意を払わなかったら、音楽はうまく人々に届かなくなってしまいますから。
■ECMに期待することは?
最善を尽くすことを望んでいます。 明らかに、ECMは芸術的な素晴らしい文化的遺産であり、ただ文化的なアイコンそのものだからです。でも、ECM自体がマンフレートそのものであるような気が私はしています。彼なしではECMはどうなるのか分かりません。彼は全ての指揮をとっているのです。彼の心が音になって現れているような、そんな感じです。それがそのまま戦略になっているんですね。音を聴くとマンフレートはすぐそこにいるんです……とても美しい、だから彼なしではどうなるかわからない。でも、彼の遺志は受け継がれるでしょうし、そうなるはずです。
私は何か他のことを考えようとしているのですが、例えば……シャネルが亡くなってもかっこいいスタイリッシュなシャネルはブランドとしてそのまま続いているというようことではないでしょうか。
マーク・ターナー『リターン・フロム・ザ・スターズ』
発売中
Header image: Mark Turner. Photo: John Rogers / ECM Records.