「演奏するときは、必ず全身全霊をかけて音楽に忠実である事を心がけているんだ」と語るのは、グラミー賞に6度ノミネートされたピアニストであり、作曲家、教育者でもあるジェラルド・クレイトン。ロサンゼルスの自宅で、アート作品が壁一面を覆う空間に腰掛けながら、彼は続ける。「それは、理論や計算に頼らず、真実と誠実さをもって演奏することを意味する。作曲する際に感じる不確実性や、前例のない何かを見つけようとする過程が好きなんだ」

「これまでに誰かがやったことがあるのか? もしかしたら、文字通りにはないかもしれない」と彼は思案する。クレイトンのブルーノート3枚目となるアルバム『Ones & Twos』は、ターンテーブリズムの手法に着想を得て「二元性」と「共存」というテーマを探求している。A面の各曲はB面の各曲と呼応しており、それぞれが独立した存在として、自らの旅路を歩み、独自の美しさや緊張感、帰結点を持っている。しかし、それらをペアで聴いたり、さらには同時に再生したりすると、クラブDJが1曲の終わりと次の曲の始まりを巧みに重ね合わせるように、オーガニックに絡み合いながら展開していく。

「でも、こうした連携はジャズでは良くあることだよ。それは偉大な伝統であるブルースに端を発するんだ。ブルースは本質的に、喜びと悲しみを証言する行為であり、全ての源なのさ」と彼は語る。その言葉には、彼が南カリフォルニア大学のアーティスト・イン・レジデンスの教員として、モントレー・ジャズ・フェスティバルのネクスト・ジェネレーション・ジャズ・オーケストラのディレクターとして、そして同フェスティバルが運営するウェブ・シリーズ『The Listening Space』のホストとして発揮する、気さくで知的な魅力が滲み出ている。

ベテラン・ベーシスト/作曲家ジョン・クレイトンの息子であり、サックス奏者の故ジェフ・クレイトンの甥でもあるジェラルド・クレイトンはオランダ生まれ。クラシック・ピアニストの母はオランダ人だ。ロサンゼルス北部のアルタデナで幼少期を過ごし、両親に連れられて幼い頃からギグに通っていた。彼はサーフィンやスケートに夢中になり、ラップをしたり、サッカーをしたり「ノートにグラフィティを描いたり、クラスの他の90年代ヒップホップ・キッズと同じようにターンテーブルで遊んだりしていた」だが、いつも傍らにはピアノがあった。

名門ロサンゼルス郡芸術高校(LACHSA)在学中、彼の繊細で知的ながらもルーツに根ざした音楽性は高く評価され、2002年には「大統領奨学生芸術賞」を受賞。その後、南カリフォルニア大学(USC)でピアノの巨匠ビリー・チャイルズに、マンハッタン音楽学校ではケニー・バロンに師事した。そして2009年にデビュー作『トゥー・シェイド』を発表。同作に収録されたコール・ポーターの「オール・オブ・ユー」で即興演奏を披露し、グラミー賞「最優秀即興ジャズ・ソロ」部門にノミネート。名手テレンス・ブランチャードやロイ・ハーグローヴと肩を並べて競い合った。その後、この2人とも共演を果たし、現在はサンフランシスコ・ジャズ・コレクティブ(SFJAZZ)の「テレンス・ブランチャード・アップスウィング・シリーズ」に参加している。

さらに、父ジョンと叔父ジェフと共に結成したハード・バップ・ユニット「ザ・クレイトン・ブラザーズ」の一員としても活動。2010年にはアルバム『The New Song and Dance』に収録された「Battle Circle」で、グラミー賞「最優秀インストゥルメンタル作曲賞」に再びノミネートされた。父ジョンは今も息子の最大の支援者だ。

「父は、僕が好きなことをやっていることを喜んでくれているんだ」とクレイトンは語る。父ジョンはカウント・ベイシー楽団やモンティ・アレキサンダー・トリオで活躍し、かつてはアムステルダム・フィルハーモニー管弦楽団の首席ベーシストを務めたグラミー受賞歴のある名手だ。

「世代が上のミュージシャン、たとえば父やチャールズ・ロイド(2013年から彼のメンターを務める87歳のサックス奏者)は、思われているよりもずっと柔軟で、僕の探求的な姿勢を全面的に支持してくれているよ。音楽の精神は常に自由であり、常に前を見据えるべきものだということを忘れてはいけないんだ」

ジェラルド・クレイトン
ジェラルド・クレイトン。Photo credit: ogata.

卓越した即興演奏家であり、先見性のある作曲家でもあるジェラルド・クレイトンは、アメリカの若手ジャズ・ミュージシャンたちの最前線に立ち、新たな世代にジャズの魅力を届ける存在だ。その精神は、ブルーノートからの新作『Ones & Twos』でも発揮されている。このアルバムには、ジョエル・ロス(vibes)、エレナ・ピンダーヒューズ(fl)、マーキス・ヒル(tp)、ケンドリック・スコット(ds)という錚々たる面々が集結。さらに、ポストプロダクションには時代の空気を巧みにとらえるラッパー/ドラマーのカッサ・オーヴァーオールが参加している。

「彼らは皆、同じ志を持った仲間さ。今のシーンで渇望するように音楽を追求し、自分を押し上げ、音楽に命を吹き込もうとしているミュージシャンたち。そして過去に深く根ざしながら、未来を見据えている」とクレイトンは語る。彼はまた、昨年ブルーノートの85周年を記念して結成されたオールスター・コレクティヴ、アウト・オブ・イントゥの音楽ディレクターも務めている。グループにはジョエル・ロス、ケンドリック・スコット、ベーシストのマット・ブリューワー、アルト・サックス奏者のイマニュエル・ウィルキンスが名を連ねている。

「『Ones & Twos』で目指した感性は、彼らならきっと共鳴してくれると確信していたんだ。彼らの音楽性を信頼していたし、実際に見事に応えてくれたよ」と彼は続ける。

制作にあたって、彼はまず問いを投げかけた。「2つの異なるメロディは調和して共存できるのか? それとも、片方が必然的にもう一方を支配してしまうのか?」
これは、2023年に発表したアルバム『Bells on Sand』と同様に、あるコンセプトを音楽で拡張する試みだった。前作では時間の影響をテーマにしたが、今回は「2人の人間は互いを支配せずに共存できるのか? 2つの文化はどうか?」と問いかける。

プレスリリースで彼はこう語っている。「音楽から学べることのひとつは、摩擦や緊張の瞬間があれば、逆に滑らかで平和に共鳴する瞬間もある、ということだ」と。

さらに彼は続ける。「クラブで1台のターンテーブルで曲が終わり、もう1台で次の曲が始まる。その『1』と『2』が重なり合う瞬間。最初は奇妙で、ちぐはぐで、不安定かもしれない。でも、それが何故かうまく行くんだ。あるいは、部屋で音楽を聴いているときに、別の部屋で誰かがもっと大きな音をたてている。それでも何となく調和して聞こえることがあるだろう?」

アルバムの先行シングル「Angel Speaks」は、その“鏡像”とも言える「Lovingly」と対になっている。後者は前者と似たサウンドと異なる音使いで構成され、ミュージシャンは前者の合図に呼応する形で演奏する。「すべてのトラックがそれぞれ単独で成立しながらも、鏡を通り抜けて別次元に足を踏み入れるような感覚を生み出すこと」が本作の挑戦だった。

『Ones & Twos』がリスナーに深い聴き方を促す作品になれば、それは望むところだと彼は言う。「一般的には、現代は人々の集中力が短くなり、じっくり音楽を聴くことが少なくなったと言われている。でも、ヴィレッジ・ヴァンガードで真剣に耳を傾ける人たちや、高品質なオーディオでレコードの細かなノイズまで聴き取る人たちが、今も確かにいる。僕はそういう人たちをパーティに招きたいんだ」

「音楽はあらゆるレベルで作用するものさ」と彼は語る。「音楽は大きな木のようなものだと思っているんだ。枝には果実が実っていて、気軽に手に取って少しの栄養を得ることもできるし、てっぺんまで登って、そこにあるイチジクの味を確かめることもできる。このアルバムがそんな体験を提供できるなら、僕は嬉しいね」


ジェーン・コーンウェルはオーストラリア生まれ、イギリス・ロンドンで活躍するアート、旅行、音楽に関するライター。雑誌SonglinesやJazzwiseに寄稿。老舗の地方新聞ロンドン・イブニング・スタンダードの公認ジャズ評論家でもある。


ヘッダー画像: ジェラルド・クレイトン。Photo credit: ogata.