これまでのキャリアや過去作品、「ジェシー・プロジェクト」全体についての内容も含んだ非常に長文かつ興味深い内容になっているので、今回はその日本語訳をお届けする。これを読んで、ぜひ「ジェシー・プロジェクト」、そして今回の『ジェシー Vol. 4』をより深く体験してみよう。


これを書いているのは、2024年3月1日の午前5時13分、ロサンゼルス。この気持ちを言葉にすることは不可能だけど、この瞬間が僕にとって何を意味するのか、みんなと自分のために、このストーリーを何とか要約できるように頑張ってみようと思う。

ついに『ジェシー Vol. 4』をみんなに届けることができた。これは僕にとって、6年以上前に初めて夢見た、巨大な旅の終わりなんだ。

時は2017年。僕は当時、一人で制作したデビュー・アルバム『イン・マイ・ルーム』をリリースし、ワンマンショーでツアーを行ったばかりだった。短期間で多くのことを経験し、指数関数的に拡大する世界観を飲み込んでいた。そしてその中で、僕が望んでいるとはっきりと感じたものが見えてきた。それはコラボレーションだった。

多くのことを夢見たりする中で、あるアイデアが浮かび、僕はそれに夢中になった。僕が愛してやまない世界中のミュージシャン、友人たち、そしてヒーローたちとともに、地球のあちこちで録音した、4つの章からなるコラボレーション・アルバムというアイデアだ。それは夢物語のように野心的なものだったけど、当時は突飛なアイデアだと感じた記憶はない。だから、僕は想像力に任せてスケッチを始めた。

4つの異なる宇宙が出現し始めた。最初のVol. 1は、広大なオーケストラの世界だった。コラール、モロッコのグナワ音楽、ブラジルのサンバ、そして僕が子どもの頃に親しんだクラシック音楽の多くを取り入れた。

Vol. 2は、フォーク、ボサ・ノヴァ、アフリカ音楽、ポルトガル、そしてキューバ音楽にインスパイアされたグルーヴなど、アコースティックなテイストを取り入れた、もっと親密で居心地の良い、穏やかな雰囲気の作品となった。

Vol. 3は、ファンクからR&B、ダンス、ポップ、そしてスポークン・ワードへと横断していく、よりエレクトロニックで実験的なスクラップ・ヤードとして始まった。これは、内なる世界、電気の嵐、熱狂的な夢といった余白の世界だった。このアルバムのほとんどを、コロナの隔離期間中に作りあげることになるとは思わなかった。

Vol. 4では、何を作りあげるのが一番大切なのか、そして物語の結末はどうなるのかがわからなかったから、しばらく空白のスペース、つまりクエスチョンマークのままにしておいた。オーケストラを再び用いたり、世界中の合唱団や多くの言語を採り入れたり、過去のテーマを組み合わせたり、世界を楽器として捉えてみたり、など大まかなアイデアはあったけど、それがどう収束するのかわからなかった。しばらくの間、それは実現不可能だと感じていたんだ。

ようやくピンときたのは、2022年のワールド・ツアー中で、オーディエンス・クワイアが自ら翼を持って羽ばたき始めた時だ。その音楽的、精神的、哲学的な衝撃は、音楽に対する僕の目的や創造性、そして僕の人生そのものを完全に変えてしまった。僕は、Vol. 4のあるべき姿とは、精神の集合体ともいえる人間の声への讃歌だということに気づいたんだ。僕は世界中で行った91のコンサートでオーディエンスの声を録音して、その声はこのアルバムのほとんどすべての曲でフィーチャーされている。このアルバムを支えているのは、みんなの声なんだ。そして100人以上のミュージシャンがアルバムに参加し、20以上の言語もフィーチャーされている。その集合的なエネルギーの爆発が、このアルバムを一つにまとめあげていて、僕はそれをとても誇りに思っている。

この4枚のアルバムに貢献してくれたミュージシャンひとりひとりに、心から感謝したい。世界中のあらゆる大陸、あらゆる年齢、世代、そしてあらゆるジャンルのミュージシャンたち。みんなを僕の共同探検家、先生、そして友だちと呼べるのは、とても光栄なことだ。みんながそれぞれ、他の誰も持ち得ないような、唯一無二なものをもたらしてくれたし、それをとても感謝している。

これまで僕のライヴに足を運んでくれ、オーディエンス・クワイアに加わってくれたすべてのみんなに感謝したい。僕の人生を変え、このアルバム・シリーズのあり方を根底から変えてくれた。僕を支えてくれて、励ましてくれて、そして僕が知らなかった道へと導いてくれて、本当にありがとう。

4枚のアルバムのレコーディング、プロデュース、ミックス作業の大半を行った、ロンドンにある築120年の美しい僕の音楽室にも感謝したい。僕のサンクチュアリ、シェルター、そしてインスピレーションであり続けてくれて、ありがとう。

6年前、この逃避行を夢見ていた23歳のジェイコブへ。僕の最も深い部分を掘り下げ、安心できる位置から抜け出し、数え切れないほどの飛躍を遂げて、あり得ないプロジェクトを現実のものにした。僕はきみをとても誇りに思っている。

そして、録音ソフトのLogicとShureのSM58マイクを握りしめて北極星を追いかけていた11歳のジェイコブへ。きみの勇気、忍耐、そして好奇心に感謝したい。きみの名誉にかけて、僕は決して立ち止まったりしないことを約束するよ。

僕は、音楽を創造することがこれほど重要な時代はないと、心の底から信じている。音楽は、人々の繋がりを生み出し変化をもたらすような、想像を絶する力を秘めたユニバーサルな言語なんだ。あなたが誰であろうと、何を信じようと、誰をどのように愛そうと、どのような方法で世界を体験しようと、人間の集まりが力を合わせて真実を表現し、互いを解放することには、どこか美しく、とても大切で、否定できないものがある。音楽はそれをとても美しく、これでもかというほど実現している。音楽を作り、それを聴く僕たち全員が、そのコミュニケーションの一部を担っているんだ。

『ジェシー Vol. 4』は僕を数え切れないほど人生に連れ戻してくれ、世界を理解し、悲しみ、飲み込む手助けをしてくれた。このアルバムは、僕に信頼と忍耐の力を教えてくれ、人を信じることの計り知れない力を教えてくれた。これまで以上に、これはひとつの冒険の終わりというより、むしろ始まりのように感じている。始まりの終わり、かもしれない。

Jacob Collier. Photo: Tom Bender.

今年のツアーでみんなに会って、この新しい曲たちを一緒に歌うのが待ちきれないよ。それを想像すると、僕の心は抑えきれないほどの爆発的な喜びで満たされるんだ。

だから、僕の世界を知ってくれて間もない人も、10年間僕のファンでいてくれている人も、みんなに、この晴れた日に、このネット上であなたと居場所を見つけられたことに感謝している。みんなの素晴らしい仲間として僕といてくれてありがとう。ジェシー時代の終わりと、その先の始まりに乾杯しよう。

そして今、時刻は午前6時46分。そろそろ寝ることにするよ。


Header image: Jacob Collier. Photo: Thom Kerr.