2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が75万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。10月・11月に新たなラインナップ100タイトルが登場するのに先駆けて、これまでに発売された全510タイトルの中から“いま”最も売れている20枚をピックアップし、個性豊かな執筆陣が紹介します。


70年代フュージョン・ブームを牽引したバンドと言えば、チック・コリア率いるリターン・トゥ・フォーエヴァーであり、ジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーターを中心とするウェザー・リポートだろう。本作はチック・コリアのソロ名義かつ、バンドとしてのデビュー作となった1972年の作品。またウェザー・リポートは前年71年にデビュー作をリリースしている。ジャズに電気楽器(フェンダー・ローズなどのエレクトリック・ピアノやエレキ・ベースなど)を積極的に取り入れ新たな表現方法を獲得した2バンドは、競い合うように人気を博していった。

 さて、そんな2大グループの両方に参加しているアーティストがいる。それがブラジル出身のパーカッショニスト/ドラマーであるアイアート・モレイラだ。マイルス・デイヴィス『ビッチェズ・ブリュー』(70年)にも参加しており、ジャズの電化の影の立役者とも言えるだろう。ウェザー・リポートのデビュー作含む多くの作品ではパーカッションを担当し、リズムというよりは質感を生かした、エレキのハードな音色とアコースティック楽器の間を埋めるような空間的なプレイが印象的だ。

一方、本作『リターン・トゥ・フォーエヴァー』ではドラムを担当、質感の美しさはそのままにアイアートのリズムが前面に出た演奏を聴くことができる。従来のジャズとは異なるビート感を求めるチック・コリアの楽曲に対し、ミニマルなフレーズで答えるのがスタンリー・クラークだとしたら、ブラジリアン・ジャズを起点に独自のリズムを提示したのがアイアートだ。一台のドラムでありながら、多数の打楽器が絡み合うようにも聞こえる演奏は、ジャズの浮遊感や即興性を残したまま電気楽器と対応するようビート感が強化され、本作のジャケットのような幻想的な世界観を見事に表現している。「スペイン」収録の次作『ライト・アズ・ア・フェザー』までアイアートは参加、ジャズが電化していく時代の可能性と緊張感が詰まった演奏はいつ聴いてもフレッシュだ。

    

【リリース情報】
チック・コリア『リターン・トゥ・フォーエヴァー』


Header image: Chick Corea. Photo: Universal Music Group.