ニューヨークのミントンのようなクラブで夜な夜な行われていた「時間外」のジャム・セッションで発展したビ・バップは、肥沃なカンザスの風景も一役買ってはいるが、ジャズの全歴史において最も永続的で影響力のある流派の1つであることが証明されている。天才トランペッターであり、時にはヴォーカリストでもあったディジー・ガレスピーは、スキャット・ソロで「ビ・バップ」という言葉を使っていたが「ビ・バップ」は1930年代に商業的ピークを迎えたスウィングから発展し、1940年代初頭に登場したスタイルを定義するインストゥルメンタル曲でもあった。

辛辣なほど攻撃的で、時に対立的なイントロと途切れ途切れのスタッカートが特徴の「ビ・バップ」は、サックス奏者のチャーリー・パーカー、ギタリストのチャーリー・クリスチャン、ドラマーのケニー・クラークやマックス・ローチを含む新世代のプレイヤーたちの真剣な決意表明だった。彼らはカルテットやクインテットを率い、そのきらびやかでキレのある複雑な演奏は、ビッグバンドのビブラートを多用した滑らかさとは一線を画すものだった。パーカーの「オーニソロジー」、「ビリーズ・バウンス」、「コンファメーション」、ガレスピーの「ディジー・アトモスフィア」、タッド・ダメロンの「ホット・ハウス」は、爽快なビ・バップの名曲であり、今日のジャズ・ミュージシャンにとって極めて重要な通過儀礼となっている。

セロニアス・モンク、ハワード・マギー、ロイ・エルドリッジ、テディ・ヒルの肖像。ニューヨーク州ニューヨーク市ミントンズ・プレイハウス、1947 年 9 月頃。Photo: ウィリアム・P・ゴットリーブ/アイラ・アンド・レオノーレ・S・ガーシュイン基金コレクション、音楽部門、議会図書館。


ジャズ愛好家なら誰もがコレクションしている名盤で、ビバップ・サウンドを知ろう。

アルト・サックス奏者チャーリー・パーカーは、その卓越した才能と、若くして亡くなった波乱万丈の人生から、ジャズ史の中で最も象徴的な人物の一人であり続けている。アルバム『ナウズ・ザ・タイム:The Genius Of Charlie Parker #3』は、50年代初頭にリリースされた数枚の10インチ盤をまとめたアルバムで、彼の天才ぶりを知るにはうってつけの入門編だ。彼の優れたカルテットは、ピアノにハンク・ジョーンズまたはアル・ヘイグ、ウッド・ベースにパーシー・ヒースまたはテディ・コティックで構成されているが、すべてのセッションで共通しているのはドラマーのマックス・ローチであり、パーカーとの関係は極めて重要だ。両者とも同じリズムのダイナミズムと大胆さ、そして適切なタイミングで音楽のテンションを高める能力を持っている。「コンファメーション」の疾走感と旋回感溢れるテーマがハイライトである一方、「コズミック・レイズ」のブルージーでゆったりとした美しい曲も収録されている。

チャーリー・パーカーの肖像、スリー・デュース、ニューヨーク、ニューヨーク州、1947年8月頃。写真: ウィリアム・P・ゴットリーブ/アイラ・アンド・レオノール・S・ガーシュイン基金コレクション、音楽部門、議会図書館。

バド・パウエルとピアノの関係は、チャーリー・パーカーとサックスの関係に良く似ている。パウエルは高度なリズム感と素晴らしいハーモニーの想像力を持っていて、そのおかげで力強く、時には鼓動するようなビートと目の眩むような幅広い音色を持つ音楽を奏でることができた。

パウエルはビバップ・ムーヴメントにおける最高のピアニストであると断言できるのは当然だが、特にピアノ・トリオのボキャブラリーに対する彼の貢献は極めて重要だった。数枚の10インチ盤からコンパイルされた『ジ・アメイジング・バド・パウエル Vol. 1』は、ドラマーのマックス・ローチとウッド・ベースのカーリー・ラッセルとの素晴らしい相性を示している。 アップビートでエネルギッシュ、ラテン風味の「ウン・ポコ・ロコ」などの曲は、ビバップの芸術性だけでなく、茶目っ気とまではいかないまでも活気溢れる特徴を伝えている。

バド・パウエル。Photo: Francis Wolff / Blue Note Records.

「ビ・バップの大祭司」と呼ばれるセロニアス・モンクは、どのジャンルにも当てはめる事が出来ないユニークな曲を書いている。彼の作品を表すには「現代音楽の天才 ”Genius Of Modern Music”」と表現するのが最も相応しいだろう。1956年にリリースされたこのコンピレーション・アルバム『ジニアス・オブ・モダン・ミュージック』は、1947年から1948年にかけてレコーディングされた曲で構成されており、キャリア絶頂期のモンクを捉えている。

「ウェル・ユー・ニードント」、「エピストロフィー」、そしてピアニスト、バド・パウエルに捧げた「イン・ウォークト・バド」といった名曲の陽気なテーマとスキッピーなリズムは、聴いた瞬間に心に残る。モンクはブルースを爽快で、未来的で、遊び心のあるものにしているように思える。モンクの優れたバンドには、サックスのサヒブ・シハブやドラマーのアート・ブレイキーなどが参加している。彼らが作る音楽の刺々しいユーモアは否定できないが、不朽のスタンダード「ラウンド・ミッドナイト」に象徴されるように、その深遠な厳粛さもまた同様なのだ。

1949年、ニューヨーク市ロイヤルルーストでのセロニアス・モンク。Photo: Francis Wolff / Blue Note Records.


ケビン・ル・ジャンドルは、ブラック・ミュージックに深い知見を持つジャーナリスト、ブロードキャスター。Jazzwise、ガーディアン紙、BBCラジオ3に寄稿している。最新刊は『Hear My Train A Comin’:The Songs Of Jimi Hendrix』。


ヘッダー画像: セロニアス・モンクの肖像画、ニューヨーク州ニューヨーク市ミントンズ・プレイハウス、1947 年 9 月頃。Photo: ウィリアム・P・ゴットリーブ/アイラ・アンド・レオノーレ・S・ガーシュイン基金コレクション、米国議会図書館音楽部門。