「それはたくさんある。だから、もっともっと作っていくよ!(そして、その言葉に続けて、ボウボウ、イエイエイエといった擬音で彼はごんごん歌っていく)」。これは、今後どんな感じに進んでいけたらいいと思いますかという問いに対する、それがジョン・バティステの答えだった。
こんな人であったのか。いや、想像通りの人物というしかない。まじ、インタヴューに応じる彼は終始リズムを取り、歌いっぱなし。それ、アルバムやライヴの歓び溢れる様と同じじゃないか! そんなナチュラル・ボーンな“音楽のムシ”状態に触れ、こんな人物が現米国音楽界の最重要人物であることになぜか胸を撫で下ろしつつ、喝采したくなる。
そんな彼は、どんな環境に育ったのですかという質問に、彼は以下のように返してきた。
「とっても幸せな環境だったよ。いろんな人たちがいたからね。だって、父方は7人兄弟の真ん中の子で、母は8人兄弟の長女だったから。でもって、母の家族は女の子が4人いて、男の子も4人だった。そんな感じで、僕はたくさんの従兄弟たちや親戚がいるなかで僕は成長していった。僕は末っ子だったので、みんなをよく観察し、いろんなことを吸収していったよ。本当にそれは学びであり、僕は人生を、生きることについて習得していったと言える」
バティステ家はニューオーリンズの音楽家系にあるが、その恵まれた音楽的な環境について話すのではなく、それを生み出す人々とのつながりの重要性を説く。彼は自らの音楽を人間味に溢れた<ソーシャル・ミュージック>たらんことを標榜しているが、そうしたスタンスも皮膚感覚で了解できてしまうではないか。
ジョンの転機は、人気コメディアン/文化人であるスティーヴン・コルベアのTVショウに関わるようになったことという。
「彼は僕の美点を引き出してくれた。番組で彼と初めて会って話し、僕のバンドのステイ・ヒューマンとともにスタジオから観客を連れて外に出ていくという演奏をしたんだ。その後、ニューヨークの地下鉄や街頭、小さなクラブ、そして全国のいくつかの場所など、いろいろな所でやった。その手のパフォーマンスを僕は約 5 年間続けた。そんなことを全米の視聴者は初めて見て、多大な感興を得たわけだ。それはターニング・ポイントだよねえ」
アーティストとしてお茶の間から認知を受けたおり、彼はヴァーヴと契約した。同レーベル初作『ハリウッド・アフリカンズ』はニューオーリンズ音楽の財産と素で向き合う内容を持ち、シンガー・ソングライター濃度を高めた『ウィー・アー』は<アルバム・オブ・ザ・イヤー>をはじめ数部門を獲得し、比類なき成功を収めた。また、新作『ワールド・ミュージック・レディオ』では視野をさらに広げ、“ユニティ”希求の意思を親しみやすくも鮮やかに表出している。
「『ウィー・アー』の成功は本当にすごいことだと思うし、喜ぶべきことだった。『ウィー・アー』はもちろん自分にとっても大好きな作品であり、言わば僕や僕の家族のレガシーの美しい一部だ。 そこには、僕の親戚たちも参加している。甥の一人は7歳だったんだけど、それはグラミー賞を受賞した最年少者となるよね。一方では、90歳になる祖父も入っている。何世代にもわたる音楽の財産や音楽文化はどういうものか、そしてそれはどう受け継がれるべきか。そんなことを考えて作った。マーヴィン・ゲイの『ワッツ・ゴーイン・オン』とかローリン・ヒルの『ミスエデゥケーション』はその答えの一例で、何度も吟味して聞き返したくなるようなアルバムだと僕は思っている。そして、僕も一時的な興味を喚起するだけでなく、聞けば聞くほど感じ入らせ、何かを伝えるものを作りたい」
また、彼はディズニー映画のサウンドトラック『ソウルフル・ワールド』にも大々的に関与。それも、彼のジャズ素養の広がりの素敵や冴えを伝えてくれる。
「うん、それも大きなうれしい経験だった。一緒に仕事をした映画のチームが大好きで、脚本の作者で監督でもあるピート・ドクターとは近しい友達になったんだ。『ハリウッド・アフリカンズ』、『ソウルフル・ワールド』、『ウィー・アー』、『ワールド・ミュージック・レディオ』……と来ているわけだけど、同じことを繰り返すのは好きではない。それらを懐かしく思い返しもするけど、同じことはしたくはないんだ。これらのアルバムは、次の芸術的体験を得るための糧。ここから新しいものを創造し、みんなとシェアしあいたい」
確かなルーツを持ちつつ、好奇心旺盛に抱える引き出しは山ほど。そして、彼は思うままいろんな世界に飛び出していき、接する者に様々な印象を与える。ある人はめくるめくビート・ポップのクリエイターと思うかもしれないし、またジャズの先にあるなんでもありの今を描いていると取る人もいるだろう。
「それは僕の望むところだね。聞く人がそれぞれ様々な思いを持つのはいいことだ。とにかくいろんなものを見て、見聞を広げ、それに従い僕は自分を制限したくない。いつも自分が何者なのかと自問し、何を作べきなのかと、作り続けるだけさ」
自分と似たような哲学やアティチュードを持っているのではないかと思わせる人はいますか。それには、彼はこう答えた。
「画家、詩人のジャン=ミシェル・バスキアだ。理由は、ストリートと高いアートの融合があるから。彼には様々な文化や地域性、ファッション、音楽など、多様な要件が共存する。彼は人生の最後に、ニューオーリンズに行ったんだよね。 あまり知られていないんだけど、(亡くなった)1988年にニューオーリンズから一連の作品を発表したんだ。一方、 僕は逆にニューオーリンズからニューヨークへ行ったわけさ」
【リリース情報】
ジョン・バティステ『ワールド・ミュージック・レディオ』
2023年8月18日(金)発売
SHM-CD:UCCV-1197 ¥2,860(税込)
01. ハロー、ビリー・ボブ
02. レインダンス (ft. ネイティヴ・ソウル)
03. ビー・フー・ユー・アー (ft. J.I.D、NewJeans、カミーロ)
04. ワーシップ
05. マイ・ハート (ft. リタ・パイエス)
06. ドリンク・ウォーター (ft. ジョン・べリオン、ファイヤーボーイDML)
07. コーリング・ユア・ネーム
08. クレア・ドゥ・ルーン (ft. ケニー・G)
09. バタフライ
10. 17thワード・プレリュード
11. アンイージー (ft. リル・ウェイン)
12. コール・ナウ (ft. マイケル・バティステ)
13. シャソル
14. ブーム・フォー・リアル
15. ムーヴメント・18’ (ヒーローズ)
16. マスター・パワー
17. ランニング・アウェイ (ft. リー・アン)
18. グッバイ、ビリー・ボブ
19. ホワイト・スペース
20. ホエアエヴァ―・ユー・アー
21. ライフ・レッスン (ft. ラナ・デル・レイ)
ジョン・バティステ (vo, p, syn, key, cl, og, melodica, harmonium, programming, sound effects)
ジョン・べリオン (vo, g, b, key, background-vo, programming)
ピート・ナッピ(g, b, key, background-vo, programming)
テンロック(b, g, key, background-vo, programming)
他
Header image: Jon Batiste. Photo courtesy of Verve Records.