シンガーソングライターとしても著名なジョー・ヘンリー(ジャズファンにもオーネット・コールマンやブラッド・メルドーとの共演で知られていることだろう)をアルバム・プロデューサーに迎え、さらなる一歩を踏み出したジュリアンに話をきいた。
「僕は二十年来のジョー・ヘンリーのファンだけど、知り合ったのは2年ほど前のことだ。彼やT・ボーン・バーネットが関わったボブ・ディランのトリビュート・コンサートに(シンガーソングライターでジュリアンの伴侶の)マーガレット・グラスピーや僕も出演することになって、そこで友人になることができた。この新作に関しては、僕はある種ソウルフルでスピリチュアルな、自分にとってゴスペル的な内容にしたいと考えていた。プロデューサーには誰がいいだろうかと考えた時、ジョーこそがふさわしいと直感した。たとえば彼自身のアルバムを聴くと、オーケストレーションとリード・ヴォーカルとアレンジの関係が、ものすごく流動的で、実に美しいじゃないか。アルバム作りに関しては、まず、互いに自分で作った音源を送りあいながら3カ月ほどやりとりし、その後、メンバーとスタジオに入って二日間で完成させた。「ヒムナル」は、もともとレコーディングする予定ではなかったけれど、最後の段階で演奏することにしたんだ。すごく特別なプロデューサーと一緒に作品づくりをできたのは大きな喜びだった」
ジョーのプロデュース同様、ラージ・アンサンブルへの取り組みもまた“願いの実現”であるという。
「人数を拡張したアンサンブルには、何年も前から取り組んでみたいと考えていた。僕はベース、ドラムス、ギターという編成のトリオを率いているから、今回はそこに他の3人のミュージシャンが加わった形になるね。彼らは即興的なミュージシャンであると同時に、卓越したコンポーザーでもある。クリス・デイヴィスは本当に素晴らしいピアニスト、コンポーザー、インプロヴァイザー、バンドリーダー、プロデューサーだ。今回のアルバムにはぜひ鍵盤楽器のサウンドを入れたかったけれど、ありきたりのものにはしたくなかった。それに応えてくれたのが彼女なんだ。パトリック・ウォーレンはT・ボーン・バーネットやトム・ウェイツ等と仕事をしているし、映画音楽やテレビのスコアの経験も豊富だ。今回の音作りには映画のスコアのようなドラマ性も持たせたいと感じたので、ぜひ彼が必要だった。リヴォン・ヘンリーは卓越したジャズのサックス奏者でもあるけれど、今回はクラリネットも兼ねてもらった。彼の、“ひとりウッドウィンド・セクション”的な存在は、アレンジにも大きく貢献している。僕が書いたのはあくまでも楽曲のシンプルな部分で、それ以外のところを3人が膨らませてくれた感じになったと思う」
カラフルな合奏が響き渡るいっぽう、「マイセルフ・アラウンド・ユー」ではソロ・ギターの妙技を聴かせ、「76」では伝説的ブルースマン=ジョン・リー・フッカーの“ブギ”を彷彿とさせる音作りをも展開する。
「マイセルフ・アラウンド・ユー」はエレクトリック・ギターを即興で弾いているうちに浮かんだモチーフを基に、構成を変えてアコースティック・ギターで弾き直した形だね。プロコフィエフやラヴェルの音作りも意識したし、僕にとっては一種、ピアノ・コンチェルト的でもある。「76」に関しては、駆り立てるようなドラム・プレイがあるとともに、サックスやピアノのワイルドな部分がよく出ていて、このアルバムの中にあるさまざまな音楽的要素が一曲に凝縮されているように感じている。自分のことを客観的に考えるのはとても難しいけれど、僕は本当に音楽を学ぶことが大好きで、今でもその生徒だと思っているから、新しいスタイル、異なるスタイルを探求していくことは自分にとって自然なことだし、ギターという楽器もそれにとても向いていると思う。本当にいろんな音楽にギターはフィットするからね」
ブルーノート・レコーズからのリーダー・アルバムは、これが4作目。ほかコーシャス・クレイ『カルペ』、チャールズ・ロイド『トリオズ:セイクリッド・スレッド』などに貢献し、いまや同レーベルに不可欠なギタリストとなった観がある。
「ブルーノートは大変に多面的なレーベルだと思う。ジャズ、インプロヴァイズド・ミュージックの創世記から、常に、未来に向かっていくイノヴェイティヴなものを捉えてきた。自分自身のリミットや、音楽の限界を超えようというプレイヤーたちが去来したところに自分がレコーディングできることは、ものすごくラッキーなことだし、数多くのブルーノート・アーティストたちから刺激を受けているよ」
Header image: Julian Lage. Photo: Alysse Gafkjen