「あなたがジャズという言葉から連想するジャズとは違うと思う」と、待望の2ndアルバム『エヴァーグリーン』のタイトルについて尋ねられたロドリゲスは言う。「でも、このプロジェクトには、僕がこれまで音楽に対して培ってきた全てのエレメントを詰め込んだ。ぜひオープン・マインドで聴いてほしいね」

ニューヨークで生まれ育ち、現在はロサンゼルスを拠点とするロドリゲス、プロデューサー、作曲家、そしマルチ楽器奏者(特にピアノとドラム)として、様々なスキルを癒合し、革新的なサウンドを産み出してきた。影響を受けたアーティストは、ジョン・コルトレーンやセロニアス・モンクからバーナ・ボーイやピンク・パンサーズまで多岐にわたる。肥沃な想像力、インプロビゼーションの才、易々と限界突破する決断力…彼が簡単に口にする「音楽」には、こうした背景が隠されている。

若干25歳にして数百のギグをこなし、ウィントン・マルサリスやミシェル・ンデゲオチェロなどが認める、先進的なサイドマンとしての輝かしい評判を持つロドリゲスは、2022年、各所で称賛されたアルバム『Let Sound Tell All』をリリース、このデビュー作はNPRによって「ジャズというジャンルを超え、その本質を収めきらないほどダイナミック」と絶賛される。

「僕の内なる声は、状況、ジャンル、スタイルに左右されない」と語るロドリゲス。ハイチ移民の両親を持ち、幼い頃から地元のバプティスト教会に通い、ジャズからソウル・ミュージックまで幅広く聴いて育った。「デューク・エリントン、スティーヴィー・ワンダー、タイラー・ザ・クリエイター、ソランジュを思い浮かべてみてよ。彼らはいわゆる「ジャンル」から抜け出し、ジャンルの垣根を超えて文化的な声となった人たちさ。R&Bの大ファンでなくてもスティーヴィー・ワンダーは知っているだろう?ジャズに詳しくなくても「A列車で行こう」は知っているだろう?これが僕が目指すものさ」

『エヴァーグリーン』はまばゆい反復が印象的な「ミッション・ステイトメント」で幕を開ける。ドリーミーなサックス・ソロ、スワーブするシンバルとシルキーなベースラインに乗せ、ロドリゲスがスペーシーなハービー・ハンコックばりのキーボードを奏でる。野心的で大胆なこの曲は、アルバム同様、スポンジの様にあらゆるジャンルの音楽を吸い込み、常に自らをリニューアルすることを探求している。

ロドリゲスはちょっと考え、「ジャズという言葉を使いたくないんだ」と答える。マンハッタン音楽学校とジュリアード音楽院を卒業し、プリンスの『ミュージコロジー』やノラ・ジョーンズの『ノラ・ジョーンズ(Come Away With Me)』を聴き、アーバン・ゴスペル界のアイコン、カーク・フランクリンの『リバース・オブ・カーク・フランクリン』のCDを学校に持ち込んだ事もある彼はこう続ける。「現代の『ジャズ』は、ヨーロッパ的なハーモニーとアフロ・ラテンのリズムから形成された初期の形態ではないよね。時代は変わり、物事は常にアップデートされているのさ」

「車、テクノロジー、服装、コミュニケーションの仕方は進化した。何故、サウンドや作曲方法も進化させないんだ?僕のサウンドは、両親や先生から受けた影響だけではない」ロドリゲスは、ベイエリアのドラマー、ケニー・ワシントンがモダン・ジャズ界のアイコン、マックス・ローチやフィリー・ジョー・ジョーンズに自分を導いてくれたと感謝している。「でも今日、新たに発売される音楽にも同様にインスパイアされているのさ」

ジュリアス・ロドリゲス Photo: atibaphoto。

似たマインドを持つ同士たちがロドリゲスのヴィジョンに賛同し、アルバムに参加している。「永遠の愛」にゲスト参加しているグラミー賞を受賞したトランペッター、キーヨン・ハロルド、歌手で実験家、自らを「祖先の楽器」と称するジョージア・アン・マルドロウもいる。マルドロウは「チャンピオンズ・コール」のレコーディングに参加、クラシック音楽の影響を受けたピアノに載せ、情熱を解き放ち、モンク風のプログレッシブでパーカッシブな音楽へと進化させている。

高校時代、オレンジ・ジュリアスという愛称で呼ばれていた彼は言う。「モンクやビバップのドラマー全般にとても影響を受けているんだ」。「僕はドラマーなので、ピアノには違ったアプローチをしている。いつも『OK、色んな音階が揃ったけどリズムはどうするかな?クールに感じさせるにはどうアプローチすれば良いかな?』ってね」。

11歳の時に初めてジャムセッションに参加して以来、観客からの受けるエネルギーは長い間、彼にとってモチベーションとリトマス試験紙の両方となって来た。ロドリゲスが2020年にカヴァーしたハービー・ハンコックのスマッシュ・ヒット曲「バタフライ」は、さまざまな会場で演奏されて来た。実験的なジャズアートアンサンブル、オニキス・コレクティヴの一員だった頃、彼はミュージシャンと観客が共生するバイブを楽しんでいた。2018年、オニキス・コレクティヴは米人気ラッパー、エイサップ・ロッキーのツアー・サポートを務め、ロドリゲスはキーボードとギターで参加した。

「何人かのマルチ・ミュージシャンは12歳か13歳の頃から知っていたよ」とロドリゲスは言う。彼はアルバム『エヴァーグリーン』でピアノ、ハモンドB-3、フェンダー・ローズ、シンセサイザーからドラム、ベース、ギター、クラリネットまであらゆる楽器を演奏している(そう、それからプログラミングも一部担当)。「オニキス・コレクティヴはとてもユニークなパレットを作り上げ、ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンやスケート・シーンを通じて数々のヒップホップ・コラボレーションを行って来たんだ」

「オニクス・コレクティヴはアヴァンギャルド・フリー・ジャズ・シーンでも認められていた。」と続けるロドリゲス。「だから僕はたくさんのラインナップに入っていた。アドリブでも、ド直球のジャズでも、R&B でもなんでもさ。エイサップ・ロッキーの出演依頼が来たのは、僕が様々なスタイルを理解していて、彼が何を求めているか知っていたからさ」

ロドリゲスは現在、自身のバンド・ライン・アップを 2つ持っている。『エヴァーグリーン』に参加している東海岸のミュージシャン、ドラマーのルーク・タイタスとアップライト・ベースのフィリップ・ノリス。もう 1つが注目のベーシスト、ジャーメイン・ポールを含む西海岸のバンド。「僕が選ぶミュージシャンはみんな独特の声を持っているので、1人が入れ替わる必要がある場合はセットリスト全体を考え直さないといけないんだ。メンバーの長所を活かした演奏をしたいからね。マイルス・デイヴィスのサウンドはバンドが違うと変わるよね。僕も同じさ。曲は書いてあるけど、僕はいつも自由に息づいて、生き生きと、進化する曲にしようと試みている。常にフレッシュでいたいんだ。常に…」

エヴァーグリーン??

「そうだね」と笑みを浮かべる彼。「エヴァーグリーン=時を経ても色褪せないでいたいんだ」


ジェーン・コーンウェル
オーストラリア生まれ。ロンドンを拠点に活動するライター。SonglinesやJazzwiseなど、英国とオーストラリアの出版物やプラットフォームで芸術、旅行、音楽に関する記事を執筆している。彼女はかつてロンドン・イブニング・スタンダードペーパーのジャズ評論家だった。


ヘッダー画像: Julius Rodriguez 写真提供: Verve Records