ジャズは、その長い歴史的において、例え有名なバンドであっても若き天才的な新人を迎え入れる事を躊躇しない音楽フォーマットだった。例えば、1958年にドラマー、アート・ブレイキー率いるオール・スター・ジャズ・メッセンジャーズに加入した20歳のトランペッター、リー・モーガンから、1963年にマイルス・デイヴィス・クインテットに参加した23歳のピアニスト、ハービー・ハンコック、2015年の『Stretch Music』でトランペッター、クリスチャン・スコットと共演した20歳のフルート奏者、エレーナ・ピンダーヒューズ、2024年の『Brightlight』でベーシスト、アヴィシャイ・コーエンと共演した24歳のドラマー、ロニ・カスピに至るまで、ベテランの才能とフレッシュな血の融合は、常に即興の妙を産み出してきた。

アウト・オブ / イントゥ (左から: マット・ブリューワー、イマニュエル・ウィルキンス、ジョエル・ロス、ケンドリック・スコット、ジェラルド・クレイトン。Photo: Ryan McNurney / Blue Note Records.

2024年、ブルーノートは創立85年を祝して、エネルギッシュな若手とベテランの融合を象徴する新たなバンドを結成した。ザ・ブルーノート・クインテットと名付けられたこのバンドは、若手の再注目ビブラフォン奏者、ジョエル・ロスとサックス奏者のイマニュエル・ウィルキンス、熟練のバンド・リーダーであるドラマーのケンドリック・スコット、ベーシストのマット・ブリューワー、ピアニストのジェラルド・クレイトンという有名な新進気鋭のミュージシャン達が参加している。クインテットは結成後すぐに全米35都市を巡るツアーに乗り出し、そのツアー中に一連の曲を作り上げた。これらの楽曲が、力強く深く表現豊かなデビュー・アルバム『モーション I』として結実した。このアルバムは、アウト・オブ/イントゥと言う新たな名前でリリースされる。

移動中の車内やライヴの合間に楽譜用紙に書き込んだり、サウンドチェック中に練り直したり、時には本番のステージ上で実際に演奏しながら鍛え上げた結果、抑えがたい衝動と広がりのある深みを併せ持つ全7曲が『モーション I』に収録される事になった。オープニングを飾る「オファフリー」は、スコットのテクスチャー豊かなシンバル・ワーク、ロスの緻密なリズム構成で始まるビブラフォンのメロディ、内面の明暗を高揚感溢れるウィルキンスのサックスが奏でる楽曲だ。7分間の曲の途中では、リリカルでビ・バップを想起させるソロへと転換する瞬間もある。

アルバムに収録されている他のアップテンポ・ナンバーも、同様な雰囲気と連続する楽器の妙技により、しばしば曲中に予想外の展開を見せる。例えば、「シンクロニー」はスコットのタムタムによる自由なドラム・ソロから始まり、ロスの気怠いソロの下、タイトで抑制されたダブル・タイム・スウィングへと展開する。そしてウィルキンスの情熱的なソロに導かれ、グループは終盤に向けて激しさを増して行く。一方「ラディカル」では、ハード・バップからラテン・リズム、ソウルフルなメロディ、モダニズムの対位法まで、あらゆる要素を盛り込んだアレンジとなっている。

『モーション I』で耳に残るのは速い曲だけではない。スロー・テンポの楽曲もまた、彼らの新鮮で創造的な好奇心を良く表している。「ガバルドンズ・グライド」は、上昇するモチーフを基盤に、ロスとクレイトンが切望感溢れるメロディを展開する。一方「バーズ・ラック」では、ウィルキンスが感情豊かにバラードを奏で、その嘆きにも似たフレーズが際立つ。アルバムで最も短い4分間の「セカンド・デイ」は、おそらく最も感動的な曲で、ブリューワーのベース・ラインとスコットのスネア・ドラムのブラシ・ワークが作り出す、揺れるヒップホップ・グルーヴが印象的な1曲だ。その上でウィルキンスとロスが、広がりのあるソロを交互に展開し、静寂と自己反省の余白を残す大胆なアレンジを見せる。 

85年の歴史を誇るブルーノートは、これまでにも所属アーティストから数々の新たなバンドを輩出してきた。1984年には、サックス奏者のケニー・ギャレットやピアニストのリニー・ロスネスといったレーベルの若手ミュージシャンを紹介する為のバンド、アウト・オブ・ザ・ブルーが結成され、80年代後半には、トランペッターのロイ・ハーグローブを中心にハード・バップの復興を目指すスーパーブルーも登場した。2014年には、ピアニストのロバート・グラスパー、ギタリストのリオーネル・ルエケ、トランペッターのアンブローズ・アキンムシーレなど21世紀を代表するジャズのスター達が集結したブルーノート・オールスターズが結成された。しかしアウト・オブ/イントゥほど世代を越えたエネルギーを活かしたグループは他にない。『モーション I』では、キャリアの異なるミュージシャンたちが調和しながら、各々の専門性を共有している。ウィルキンスとロスがその卓越したテクニックを思う存分に発揮できるよう、グループのベテランたちは堅実な基礎を構築し、スペースを作っている。その結果、エネルギーに満ち溢れ、聴く度に新たな発見があるアルバムに仕上がっている。スコットは作曲と録音の過程について次のように述べている。「お互いに刺激し合い、さらに深く掘り下げることが出来たよ。バンドはよりタイトになったけど、同時にルーズにもなった。このバンドスタンド(野外ステージの事)には、溢れんばかりの才能と創造性が集結したんだよ」

アウト・オブ/イントゥはまだ「オールスター」グループとは呼べないかもしれないが、メンバーひとりひとりが今後、何十年にも渡ってジャズの未来を形作り、新たな世代に楽器を手に取らせ、ジャズに挑戦するきっかけを与えることだろう。そして、そうした未来のジャズ・ミュージシャンたちが彼らと同じステージで、ハーモニーを奏でながら、アドリブ演奏を披露する日が来るかもしれない。


アマール・カリアは作家、ミュージシャン。ガーディアン紙のグローバル音楽評論家であり、Observer、Downbeat、Jazzwiseなどに寄稿。デビュー作『A Person Is A Prayer』が発売中。