――久しぶりの新作ですけれども、制作を始めるときに「こんなアルバムにしたい」という構想はあったんですか?

黒田卓也「まず2曲目の「Everyday」と4曲目の「Car16 15 A」を最初にやりだして、それが今回初めてアルバムに参加してくれるドラムのデヴィッド・フレイザー、彼との化学反応がすごかったんですよね。自分が家で作ったビートを超えてくるプレイをしてくれて、テンションがガーッと上がってしまって。これはこのまま彼を中心にアルバムを一個を作りたいなと思ったんです」


――
なるほど。デヴィッド・フレイザーさんとベースのラシャーン・カーターさん、この2人のリズムがものすごく気持ちが良かったんですけども、ラシャーンさんとはもう20年の付き合いで、デヴィッドさんとは今回初めてなんですね。

「ライブではここ2、3年お世話になってて、レギュラーだったアダム・ジャクソンがテキサスに引っ越してしまってニューヨークでのドラムに困ってたとき、サックスのクレイグ・ヒルのバンドで彼がやっているので、お願いしてやってもらうようになって。びっくりするくらい素晴らしいドラムで、気に入ってます」

――今回、バンドの演奏と黒田さんがその前に作ったトラックがうまく重なって面白いんですけども、実際どうやって作っているのかを教えていただきたいんです。いちばん最初は黒田さんが自分で作り込んでいくということですね。

「そうですね。とにかく僕の音楽の中で一番重要なのはドラム・トラックなので、デヴィッドだけをまず呼んで、ベースとキーボードなどの他のエレメントは全部僕が入れてるんですけど。で、彼が本当に俺の意図を汲み取ってしかもそれを超えてくるってことをしだしたんで、そこから始まって、ラシャーンも呼ぶんですけど、その中で自分のシンセベースがすごくハマってたりとかして、曲のこの部分はこのままシンセベースでいこうみたいな。そういう足したり引いたりみたいな作業がすごく多かったなと思います」

――プロダクションとライヴ感のバランスがとてもいい、と思ったのですが、どうですか?

「今回の曲自体が前回よりもすごく分かりやすいものが多いなと自分では思っていて、それは何でかなと思ったんですけど、この2年間、自分のキャリアの中で一番飛び回ったというか、自分名義で毎回たくさんの人の前で演奏しているうちに、ステージの上でやるっていう感覚が常に頭の中にあるようになったからでは、と思うんですね。スタジオでのプロダクションとは言いながらも『生感』が全編に出てくるのが自分でわかりました。あと、自分の家で入れたすべてのエレメンツの精度が上がってきて、入れ替える必要がなくなったっていうのはすごい今回の功績だったなと思います。その中で、ニューヨークのコミュニティの仲間たち、たとえば二階堂(貴文)くんとか加藤真亜沙さんとか泉川(貴広)くんとか、手練れたちの技が入ってきて、そこからいいところだけを拝借して散りばめた、っていう」

泉川貴広

  

――最初に作られた黒田さんのトラックはほぼ全ての曲に入ってるっていうことなんですね。

「全部の曲に入ってます」

――ドラムについても、黒田さんが入れたビートを使ってる部分もあるんですか?

「結構あるんです。ドラムに関しては3曲目と5曲目は結構僕のが入ってます」

――それをデヴィッドさんが叩いた部分と組み合わせていくという。

「そうですね。僕のドラム・トラックってそこまでややこしいパターンじゃないんですけど、デヴィッドの重要なキックとスネアとハイハットのラインがそれの上に重なりますよね。で、バチッと合ってるところをしっかりエディットの作業で回していくと、サンプルでもない、生でもない、なんとも言えない温かみもあるけど、突き抜けるような強い音を作り上げることができて、そのブレンド感が今回めちゃくちゃ上手くいった。それにはエンジニアのトッド(・カーダー)の功績がでかいです」

黒田卓也


――
元のトラックの上で色々人がやって、それを組み合わせて最終的な音にするのは黒田さんとトッドさん。

「最後は2人でコントロール・ルームのなかで考えていくっていうのが、いちばん楽しい作業です」

――音色もすごく色々なことをやってらっしゃるのかな、という気がしてて、非常に生っぽいところと結構エフェクトされてるようなところと両方感じます。

「下がちょっとプロダクションが強い時は、トランペットの音は生に近づけたりとか、その辺のバランスをすごくあえて際立つように、かけすぎたりかけなさすぎたりっていうのをすごい調整しました。特にトランペットに関してはトッドにすごく言ってましたね。
この曲はもうちょっと生でいいから、って、生であることが逆にエフェクトになるというのをすごく意識してました」

――生のドラムの音も加工してらっしゃるんですか?

「曲によりますけど。でもデヴィッドが僕のデモを聞いて、出したい音の方向性をセッティングの時点ですごくこだわってくれるので、曲によってキックのインチが変わったりとか、スネアのサイズも変わったりとか。もちろん、曲によっては後からサンプルのキックを足したりとかしてます」

――本当に細部にわたって細かく作られたアルバムって感じがしますよね。

「いちばん重要視したのは、キックのパターンが結構細かいのもあるんですよ。それが埋もれないように、探さなくても耳に入ってくるように。それさえあったらあとはどういう調整してもいいからっていうのを、口酸っぱくして言ってましたね。やっぱり腰のあたりで聞きたいっていうのがあって。上半身ムキムキよりも下が強いのがいいんだと。

――こういう音楽って下の部分がガチッとしてないと気持ちが良くならないということですね。

「上ネタはほっておいても耳に入る、っていうのは僕の中で持論があって、だから下が大事っていうのはずっと言ってました」

黒田卓也


――
黒田さんはすべての曲でいっぱいソロを吹いているわけじゃないですけども、たとえば「オフ・トゥ・スペース」という曲ではバリバリに吹きまくっているけど、そのあたりのメリハリみたいなのは考えました?

「そうですね。あの曲はもう本当にジャズっぽいアプローチでやろうと思ってたんで、全員でスタジオでドンってやって、その瞬間でかっこいいソロを吹いてやるっていう。難しすぎて、わーっと思い切り吹いたんですよ。後でコントロール・ルームで聴いて、よし、これでいこうと思って」

――クレイグさんのテナーもすごく面白いですよね。

「音がいいっていうのがまずあって、本当にかっこいいフレーズを毎回吹いてくれるから安心ですよね。1テイクで『もういいや』って言うから、もうちょいやれよって(笑)」

――バンドとしてのまとまりみたいなものがありますね。

「それは大きいと思います。特にクレイグとデヴィッドは2年間一緒に回りましたので、彼らも大きなメロディーの一つとして今回フィーチャリングしました」

クレイグ・ヒル


――今出てきた4人の方がコアになって、そこにいろんな方が参加されています。

「泉川君とも最近ずっとライブやってます」

――泉川さん、すごくいいですよね。

「とんでもないですね。最近のライブだと、彼が一番大きな拍手をさらっていく」

――ローズのソロもいいし、オルガンがすごい素晴らしかったですね。

「彼はオルガンの名手なんですよ。教会とかでよく演奏してたから」

泉川貴広


――
他のゲストの方々についても教えてください。

「真亜沙さんと二階堂くんはコミュニティが一緒で、仲良くてニューヨークでよく遊んでるし、俺がスタジオに入ってると、みんなお酒持って遊びに来てる。その時にちょっとやって、みたいな。自分がちょっと難しくて弾けないやつとか(笑)、贅沢な使い方なんですけど、ほんとそういう感じで出てもらってます」

――ギターはAkira Ishiguroさんが2曲に入ってらっしゃいます。

「ずっとニューヨークで活動していて、今は日本なんですけど、もう技術が高い、すごいギタープレーヤーです。今回久しぶりにアフロビートの曲をやろうと思って、頭の中にはギターのラインが常にあるんですけども、バンドの構成上、いつもキーボードの人に弾いてもらっているんですね。ちゃんとギター入れたいな、と思って今回2曲でお願いしたら全然変わって、ソロも素晴らしかったし」

――ソロは4曲目「Car 16 15 A」でしたね。でも2曲目「EVERYDAY」のカッティングもいいですね。

「いや、最高ですよね。もう本当にニコニコしてました」

――あとヴォーカルが2曲にフィーチュアされてますね。まずは「マスト・ハヴ・ノウン」の、おなじみのコーリー・キングさん。そして「バッド・バイ」ではFiJA(フィージャ)さん。

「FiJAは日本に住んでる素晴らしいR&Bシンガーで、僕はインスタで見つけてダイレクトメッセージを送って口説いたっていう、あんまりやったことないことをやってみたんです」

――ラストの曲〈キュリオシティ〉には、バス・クラリネットの土井徳浩さん、テナー・サックスの西口明宏さん、トロンボーンの池本茂貴さんのホーン・アンサンブルが入っていますね。

「土井さんは本当に人柄も演奏も素晴らしい人です。ニューヨークでの録音で、バス・クラリネットを入れたかったのにうまくコーディネートできなかったんですよ。俺、もう明日日本に行っちゃう、でも土井さんがいるな、と。すごい名手なんで、スタジオDedeを一日押さえて」

――面白いなと思ったのは、テナー・サックス、バス・クラリネット、トロンボーンって、音域的には下だけっていう感じですね。

「これはわざとそうしたんですけど、バス・クラリネットを活かしたいから。この曲はトランペットがあまり音域の高いメロディーじゃないので、アルト・サックスとかを入れちゃうと明るくなりすぎるなと思って。バスクラがセカンド・メロディーぐらいで動いてるのを、トロンボーンとサックスの低音で支えるっていう、自分でもチャレンジングなアレンジをしています」

――バス・クラリネットが動いてくところが非常によく聞こえてくるので面白いですね。

「ミキシングでも『上げて!上げて!』って言ってました」

――これは多分いろいろ考えてアレンジしたのかな、と。

「考えました。こういうホーン・アレンジって、昔よくやってたんですよ。〈いそしぎ〉をこんな感じにしたりとか。だから久しぶりにこういうのをやって、モダン・ジャズっぽい動きというか、すごい自分でも新鮮で懐かしかったです」

――ご自分のトランペットに関して言うと、ソロはそれほどたくさんはなくて、アンサンブルとテーマをクレイグさんとオクターブで吹くっていうパターンが結構多いんですね。

「そうですね。ビートに重点を置いたアルバムなので、アルバムのトラックに関してはキュッとしてますよね。ただライブになったら8倍くらいソロが長いんで(笑)」

黒田卓也


――
ライブでは、その辺も楽しみになりますね。

「もっとインター・プレイがあったり、反応し合ってソロのパートで最高潮にボルテージ上がることとかが多いと思いますね。もうすでにここ1年ぐらい、今回入れた曲の半分ぐらいをやってるんですよ。めちゃくちゃお客さんにもハマってるのが見えてるし、だから、音源を出してからまたやるのがすごい楽しみですね」

――3月9日のブルーノート東京はどんなステージになる感じですか?

「まあ、一応レコ発なんですけど、アルバムを超えた演奏というか、この曲が今こんな風になってるの? みたいな経過としてお伝えできるといいですね。1曲15分とか普通に行っちゃうんで、全曲できないなって。どうしようか、最初に謝ろうか、すいません(笑い)。セカンド・セットも買ってください(笑)」


――このアルバムで聴く人の幅を広げたいという気持ちはありますか?

「もちろん普段からそれは思ってますけど、でも大きく広げたいと思ったことは一回もなくて、本当に自分の音楽はめちゃくちゃはっきりしてると思うんですよ。やってることが中途半端じゃないとか、迎合してないとかだから、本当にこれが好きな人が一人ずつ増えていったらいいなって思ってます。突然バーンと増えることも期待してないし、ただ好きになってくれるはずなのに聴いてない人が絶対いるはずだから、そういう人たちに届くように頑張っていきたいなって思っています」

――自分の音楽に良い反応してくれる人が着実に増えてるっていう実感ってありますか?

「めちゃくちゃあります。この3年、ヨーロッパに何度も呼んでもらっていて、行くたびにお客さん増えてるし、アルバム出てないのにソールドアウトになったりとか、ちょっと自分でも予想してないぐらいいい反応なんですよね。そのことが着実に自信にもつながってるし、このアルバムが広がって、こういうのが好きな人がもっと来てくれて、いいライブができたらいいなって、そういう相乗効果があると嬉しいですね。ライブって正直じゃないですか。楽しくなかったら絶対に次に来ないじゃないですか。だから今、そのことをすごい感じてます」

――ありがとうございました。ライブが本当に楽しみです!

    

【リリース情報】

黒田卓也 『EVERYDAY』

SHM-CD: UCCU-1694 ¥3,300(tax in)
2025年2月28日(金)発売
ユニバーサルミュージック 

収録曲:
1. イントロ, ジ・オンリー・ウェイ
2. EVERYDAY
3. バッド・バイ
4. Car 16 15 A
5. マスト・ハヴ・ノウン
6. オフ・トゥ・スペース
7. アイアン・ジラフ
8. ハング・アップ・オン・マイ・ベイビー
9. キュリオシティ

〈参加メンバー〉
黒田卓也(tp, synth, per, rhodes)
コーリー・キング、FiJA(vo)
クレイグ・ヒル、西口明宏(ts)
土井徳浩(bcl, fl)
池本茂貴(tb)
泉川貴広(p, org, rhodes)
加藤真亜沙(rhodes)
Akira Ishiguro(g)
ラシャーン・カーター(ba)
デヴィッド・フレイザー(ds)
二階堂貴文(per, congas)

Produced By Takuya Kuroda
Recorded By Todd Carder at Bunker Studio in Brooklyn NY
Recorded By Akihito Yoshikawa at Studio Dede in Tokyo Japan
Mixed By Todd Carder
Mastered By Nathan James at Vault Mastering Studio Inc.

      

【購入者特典情報】

▼UNIVERSAL MUSIC STORE:サイン入りポストカード
※ご予約・ご購入者先着となります。
※特典はなくなり次第終了となります。

   

【公演情報】

TAKUYA KURODA “EVERYDAY”

〇大阪公演
2025年3月5日(水)
Yogibo META VALLEY
開場/開演:18:45 / 19:30

〇東京公演
2025年3月7日(金)
LIQUIDROOM
開場/開演:18:15 / 19:00

〇高崎公演
2025年3月8日(土)
高崎芸術劇場(スタジオシアター)
開場/開演:17:15 / 18:00

〇ブルーノート東京公演
2025年3月9日(日)
BLUE NOTE TOKYO
[1st] Open3:30pm Start4:30pm
[2nd] Open6:30pm Start7:30pm

出演:
黒田卓也(tp)
クレイグ・ヒル(sax)
コーリー・キング(tb)
泉川貴広(p,key)
ジェイレン・ペティノー(ds)

詳細:https://www.bluenote.co.jp/jp/lp/takuya-kuroda-2025/