時折、ジャズ界に衝撃を与える意外なアーカイブ音源が登場することがある。それが正に『フォーシズ・オブ・ネイチャー:ライヴ・アット・スラッグス』だ。この作品は、1966年に録音された未発表のライヴ音源で、ピアニストのマッコイ・タイナーとテナー・サックスのジョー・ヘンダーソンというジャズ界の巨匠が共同で率いた重量級カルテットの演奏を捉えたものだ。ベースにヘンリー・グライムス、ドラムにジャック・ディジョネットが加わり、4人の名手が絶頂期に繰り広げる圧巻の演奏が記録されている。ヘンダーソンの「イン・ン・アウト」の約27分に及ぶバージョンや、28分に及ぶ「テイキング・オフ」など、驚異的なパフォーマンスが5曲収められている。
半世紀以上もの間、この録音はディジョネットの個人的なアーカイブとして眠っていたが、著名なプロデューサーであるゼヴ・フェルドマンが発掘した。「ジャズ探偵」として知られるフェルドマンは、2021年にジョン・コルトレーンのカタログに追加された『至上の愛〜ライヴ・イン・シアトル』など、数々の重要なアーカイブのリリースを手掛けてきた立役者だ。
「これは私が関わった中でも最もエキサイティングなプロジェクトの一つと言えるよ」とフェルドマンは語る。「この録音を初めて聴いたとき、その素晴らしさにすぐ気付いたよ。まるで顎が床に落ちたような衝撃を受けたんだ。マッコイ・タイナーとジョー・ヘンダーソンの話になると、私たちはしばしば彼らの同じアルバムに手を伸ばしがちだ。しかし、このリリースは、まるで新たなチャプターを掘り起こすようなものなんだ。ミュージシャンたちは非常に高いレベルの演奏をしていて、そのエネルギーは桁外れだ。おそらく、これまで耳にした中で最も驚異的なライヴ・ジャズの記録の一つではないかと思うよ」
確かに、このアルバムは4人のミュージシャンのキャリアにおいて魅力的な瞬間を捉えている。1966年までに、タイナーとヘンダーソンはすでに強固な絆を築いており、タイナーはヘンダーソンの1963年のデビュー・アルバム『ページ・ワン』、および1964年の『イン&アウト』や『インナー・アージ』で演奏している。
ちょうどその前年、タイナーはジョン・コルトレーンの世界を揺るがせたクラシック・カルテットでの5年間の活動を終え、よりアヴァンギャルドな方向へと進み始めていた。また、1966年はディジョネットがニューヨークに移り、プログレッシブでありながら人気の高いチャールス・ロイド・カルテットに加入した年でもある。一方、グライムスはソニー・ロリンズなどと共にストレート・アヘッド・ジャズを演奏してキャリアをスタートさせたが、60年代半ばにはニューヨークのフリー・ジャズ・シーンの中心人物となり、アルバート・アイラーやドン・チェリーといった「ニュー・シング」の先駆者たちと録音を行っていた。こうした背景を持つ彼らによる『フォーシズ・オブ・ネイチャー:ライヴ・アット・スラッグス』の演奏は、激しくスイングしながらも、限界を打ち破ろうと懸命に模索するエネルギーに満ち溢れている。
「このレコーディングは、ミュージシャンたちが本当の意味で演奏し、激しく探求し、新しいものを探し、試行錯誤をしていた時代を象徴しています」とディジョネットは語る。「当時は非常にクリエイティヴな時代でした。ミュージシャンたちはいろいろなことに挑戦していたし、スラッグスのような実際に演奏し、自分の技術を磨くことができるジャズ・クラブがありました。当時、音楽は変革期で、より探求的な方向へと移行していました。そして、その環境がこうした探求を後押ししていたのです」
ニューヨークのイースト・ヴィレッジにあったスラッグスは、60年代半ばから1972年のリー・モーガン殺害事件で閉店するまで、リスクを冒しながらも活気に満ちたジャズ・クラブとして知られていた。今ではジャズ史の伝説的な失われた聖地と見なされているその雰囲気が、この録音を通じて見事に蘇る。
「この場所からは本当に驚くべき音楽が数多く生まれたんだ」とフェルドマンは語る。「発掘されたレコーディングには、あの場所には特別な何かがあったということを思い出させてくれる。当時そこで何が起こっていたのかを生々しく今に伝えてくれるのさ」
『フォーシズ・オブ・ネイチャー:ライヴ・アット・スラッグス』で聞けるこの見事なレコーディングは、当時数少ないアフリカ系アメリカ人の伝説的レコーディング・エンジニア、オーヴィル・オブライエンの手によるものだ。彼は、フレディ・ハバードの『ザ・ナイト・オブ・ザ・クッカーズ:ライヴ・アット・クラブ・ラ・マルシャル』やチャールス・トリヴァーの『Music Inc.』、アリス・コルトレーンの『ジャーニー・イン・サッチダーナンダ』といった名作のレコーディングを担当した人物でもある。
「彼もまた、魅力的で謎めいた人物なんだ」とフェルドマンは語る。「だからこのアルバムには、重要な要素が沢山詰まっているんだ」
フェルドマンにとって、この特別な録音を発見し、アルバムとしてリリースされたことは、彼が語り継いできたジャズの物語の中で、重要な節目であることに間違いない。「これが私たちに教えてくれるのは、どんなに年月が経とうとも、私たちはまだこうした発見をしているということなんだ」と彼は熱く語る。「私たちはまだ何かを発見し続ける。これからもそうあり続けることを願っているよ。だって、それは本当に重要な仕事だからね。音楽の考古学だよ。しかし、それは単に何かを発見するということだけでなく、あなたの髪の毛を真ん中で分けて、ワクワクさせるようなものを見つけることでもある。そして、この録音は正に『髪の毛を真ん中で分ける』、それ、なんだ。これは過去30年から40年で最も偉大な発見の一つだよ」
ダニエル・スパイサー:ブライトンを拠点とするライター、ブロードキャスター、詩人で、The Wire, Jazzwise, Songlines, The Quietusなどに寄稿している。トルコのサイケデリック・ミュージックに関する本や、Jazzwiseのアーカイブから記事を集めたアンソロジーの著者でもある。
ヘッダー画像:ジョー・ヘンダーソンとマッコイ・タイナー。Photo: Francis Wolff / Blue Note Records.