数週間前、私はツイッター (現 X) で、最新リリースのアルバムで今聴くべきオススメを募集した。
ライターのフィル・フリーマンは「ビル・チャーラップの新譜を聴いてみてくれ。きっと気に入ると思うよ。僕は嫌いだけど」と冗談を言った。
実際、フリーマンの言う通り私はそのアルバムが大好きで、ピーター・ワシントンとケニー・ワシントンが参加したアルバム『And Then Again』をSubstack(米のメルマガ・サービス)でレビューした。
フリーマンは、新しいジャズ・アルバムにお馴染みのスタンダード・ナンバーが収録されることをよしとせず、SNSに思いの丈をぶちまけることを厭わないタイプの人物だが、すでに全てのSNSフィードにチャーラップのアルバムに関する怒涛の批判ツイートを載せていた。
私はフリーマンの立場に共感するところが多い。そもそもレコードの数が多すぎるし、多くのスタンダード・ナンバーは、刺激のない現代のミュージシャンの手にかかると、あまりにも馴染みすぎて聴こえてしまうし、カフェで流れるSpotifyのプレイリストは「Jazz for Study」や「Lazy Jazz Cat」のような括りで、意図的に古い、当たり障りのないスタンダード・ナンバーで埋め尽くされている。
とは言え、何が素晴らしいアルバムになるかという指標はひとつではない。オリジナル曲 VS スタンダード曲、即興曲 VS アレンジ曲、古い曲 VS 新しい曲など、そのどれもが合格にも不合格にもなり得る。
ビル・チャーラップの場合、彼はアメリカン・ソングブックに生涯を捧げ、その解釈を新鮮で独特なものにしようと懸命に努力している。ビルに電話して新作について尋ねた時、私が最初に言ったことは「えっと、ちょうど”All the Things You Are”をマイナー・ メジャー・セブンスで練習してたところなんだよ」だった。チャーラップは笑った。”All the Things You Are”の最初の2小節は、いつだってマイナー・セブンスだ。チャーラップはそこにマイナー・メジャー・セブンスを混ぜて演奏している。この和声的な手法は巧妙で過激だ。『And Then Again』のセットリスト全体を通して、同様の過激さがある。
[編集部注:この2つのコードには半音(半ステップ)の違いしかないが、マイナー・セブンスをメジャーに変換すると顕著な変化があり、音楽はよりエッジの効いたミステリアスな雰囲気になる]
それから、バンドのケミストリーの火付け役は何かという問題もある。多くのレコードやライブで、アンサンブルは聴き慣れた曲の方が新鮮でルーズに聴こえる。偉大な実験主義者ジョン・コルトレーンやマイルス・デイヴィスが、1960年代の革新の激動期にスタンダードを演奏し続けた理由はここにある。
良い曲を書くのはとても難しい。実際、ページ上に音符をたくさん書く方が、少ない音符を書くよりも簡単なように思えるほどだ。Sibelius、Finale、Musescore、Doricoのようなコンピュータ楽譜制作ソフトの登場は、ジャズにとって悪いことだったのだろうか?今や誰もが、小さな音符を制作ソフトに入力してプリントすれば、あっという間に作曲家になれる。この「簡単な入力」は、実は少し民主的すぎるかもしれない。コンピュータ・ファイルに入力されたたくさんの音符は、意味のある、記憶に残るストーリーを語っていないことがあまりにも多いからだ。現在活躍している素晴らしいジャズ・プレイヤーの中には、楽譜制作ソフトに費やす時間を減らし、セットにスタンダード・ナンバーを少し加える人もいる。
実際、バンドのメンバー全員にアルバムの制作コンセプトを理解してもらうのに、選び抜かれたスタンダード・ナンバーを示すのは一番手っ取り早い手段だ。
フィル・フリーマンの最新刊は『In the Brewing Luminous: The Life & Music of Cecil Taylor』である。非常に読み応えがあり、お薦めの一冊で、最も重要なピアニストの一人であるセシル・テイラーの初の長編研究書だ。
私はセシル・テイラーが好きで(ジミー・ライオンズの方がもっと好きだが)、テイラーのアルバムをかなり聴いてきた。でもしばらく聴くと、なんだか全部同じに聴こえてしまう。素晴らしいんだけど、少し単調に聴こえてくる。
私の好きなテイラーの曲のひとつは、初期のもので、ロジャース/ハマースタインのスタンダード・ナンバー「This Nearly Was Mine」を1960年に自己解釈したものだ。これはテイラーが録音した最後のスタンダードのひとつである。テイラーのその後の壮大なディスコグラフィ(1960年代から21世紀にかけて70枚を超えるレコード)の中で、もしグレート・アメリカン・ソングブックからのメロディをもう少し演奏していたら、さらに魅力的なものになっていただろうと私は思う。実際、もしテイラーがオール・スタンダードのピアノ・ソロ・アルバムを作っていたら、私はいつもそれを聴いていたに違いない。
イーサン・アイヴァーソンはピアニスト、作曲家、作家。ザ・バッド・プラスの元メンバーで、彼の最新作『Technically Acceptable』は2024年にブルーノートからリリースされている。
ヘッダー画像: イーサン・アイヴァーソン。Photo: Monica Frisell.